■ きっと僕の愛は歪んでいる

※成長


 桜の大樹の根元に、死体を埋めた。多分、自分は悲しんでいたんだと思う。そうでなければ最早誰であるかも判別のつかないこんな死体を埋めるなんて面倒な真似はしなかったはずだ。周りのものと同様、鴉に啄まれていくと思うとどうしようもない気持ちになって、鋤を片手に鶴町は無心で穴を掘った。

「おや、奇遇だね」

 額に浮かんだ脂汗を片手で拭い、顔をあげればそこには懐かしい姿があった。

「こなもんさん」

 鶴町の声には隠しきれない悦びが滲み、同時に動揺も孕んでいた。

「綺麗だねぇ」

 頭上で咲き乱れる桜を仰ぎながら、雑渡は呟くように言う。鶴町は視線を根元にさげて、再び穴を掘り始めた。

「桜の大樹に死体を埋めると、死者が甦るんだそうだ」
「それ、こなもんさんが僕に教えてくれたんですよ」
「おや、そうだったかな」

 雑渡はすう、と目を細めると大樹の幹に背をあずけるように横たえられた死体を一瞥した。よくもまぁこんな酷い状態のものをここまで運ぶ気になったものだ。常人なら他人のものでも触れることさえ躊躇うだろう。それが顔見知りであるなら、尚更。

「伏木蔵くんは、甦りを信じているのかい?」
「いえ、僕は信じてなどいません」
「では、何故穴を掘っているんだい」
「大切な人の死体は、同じ場所に埋めることにしたんです。そうすればいつでも皆に会えるでしょう?」

 それにこの場所は僕たちには勿体無いぐらい綺麗で、そして儚い。

「伊作先輩みたいに、雑渡さんもここに埋めてあげますから、楽しみにしておいてくださいね」
「でも今はまだ、殺してあげません」


 鶴町は口元を緩め、笑う。
 善法寺を殺めたのが雑渡であることぐらい、鶴町には分かっていた。もう、鶴町とて子供ではないのだ。


「そうかい。ではその時を楽しみにしているよ」

 そう言って雑渡は桜吹雪の中に姿を消した。



end.
2013/4/6
御題:自作



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