■ 君を汚すことはできない
「わあっ…見て三郎!雪が降ってる」
今朝はえらく冷え込むと思えば、障子の向こうは既に銀世界。はやくも下級生達が外に繰り出し雪合戦を始めている。
「綺麗だね、雪」
「……私は寒いのが嫌いだ。だから雪もどちらかというと嫌いだな」
「そう?僕は好きだけどなぁ…。僕は外に行ってくるけれど、まだ授業まで時間あるし…三郎はもうしばらく寝ておくかい?」
「ああ…そうするよ」
そっと音もなく障子がしめられる。外からは断続的に一年生のはしゃぐ声が聞こえてきた。
三郎は両の耳を塞ぎ、固く目を閉じた。雪は嫌いだ。雪が降ると、嫌なことを思い出すから。
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「雷蔵……ッ!しっかりしろ雷蔵!」
血に濡れた手のひら。真っ赤な血が真っ白な地面にはえて、綺麗だね、なんて雷蔵はこぼした。
雷蔵の言うとおりそれはとても綺麗で、美しかった。人は、人は命を懸ければ懸けるほどに美しいのだと、その時三郎は知ってしまったのだ。
「綺麗なんかじゃ……ない」
綺麗になればなるほど、雷蔵が痛い思いを、苦しい思いをするのならば、綺麗になんてならなくてもいい。
「私が雷蔵を汚してやるから…だから」
どうか逝かないで。私をおいていかないでおくれ。
「ねぇ、雷蔵」
雪よりも美しいものを、私は知っている
了
2013/2/8
御題:魔女のおはなし
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