■ 行方知らずのしあわせを

 市販の消しゴムのカバーの裏に好きな人の名前を書いて、誰にも気付かれずに使いきったらその恋は成就するらしい。

 ブン太の席の隣でクラスメイトが話していたのを聞きかじって、少し興味がわいたので実際にブン太は試してみることにした。
 購買で新品の消しゴムを買って、パッケージをあけてカバーをとると新品特有のさらさらとした白い粉が指先につく。その感触を楽しみながら筆箱からネームペンを取り出してさっそく思い人の名前を書いた。下の名前を書くのは気恥ずかしかったからあえて名字を書いて、カバーを丁寧に消しゴムの本体に装着する。

 あとはこれを使い切るだけだ。消しゴム自体の大きさは大したことがないから割とすぐになくなるだろう。
 クラスメイトの話によれば、消しゴムをわざと折ったり切ったりすると効果はなくなってしまうらしい。あくまで使い切れ、と。つまりはそういうことだ。

 なんやかんやいって消しゴムを使い始めて早一ヶ月。消しゴムは大体最初の三分の一ぐらいの大きさになっていた。だがしかし思い人の名前はまだ消えていない。
 はやく使い切りたいとかそういうことはあまり思わなかったがやはり使い切った時にどうなるか、というのはいささか気になるところではあった。
 とはいえおまじないの類の効能なんて根も葉もないものばかりで、根拠のこの字もないのだからかの試みそのものが愚かな行為なのかもしれない。それを頭でわかっていてもなおつい試してしまうのは女の悲しい性、ということに他ならないのだ。


 そこまで思考を巡らしていたところで、後ろからとんとん、と肩をたたかれた。

「ブン太、ちょっとの間でいいき、消しゴムかして」

 後ろの席の仁王がものを借りてくるのはいつものことで、つい癖でブン太は消しゴムを仁王に手渡してしまった。
 やばい、と思った時には既に遅く消しゴムは仁王の手に渡った後で。

(見られてない……よな、)


 消しゴムのカバーの下には仁王の名前が書いてあるというのに、本人に見られなんてしたら今までの努力が水の泡だ。

「ありがと、」
「ん、」



(……どうか見られてませんよ―に……)





* * *



 最近女子の間で流行っているらしいおまじない。

 ブン太の思い人はいるのだろうか、もし仮にいるとしたら一体誰なのだろうか、と。それは単なるちょっとした好奇心で特に深い意味はなかった。

 そうして仁王はそっと消しゴムのカバーを外す。
 小さな可愛らしい丸字で書かれていたのは、予想だにしなかった自分の名前で。


「……やってもうた、」


 その好奇心が、意外な事実を暴いてしまったのだ。






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2012/6/6
御題は自惚れてんじゃねぇよ様より


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