■ 依然逃走中

 仁王は人との極度の接触を避ける嫌いがある。あまり深く聞いたことがあるわけではないが何かしらのコンプレックスを持っているようで、部活仲間以外と話している場面を見たこともなかったし本人もどこ吹く風といった感じで一匹狼を決め込んでいた。

 そんな仁王が泣いているのを見たのはまだ知り合って間もない頃、確か大型連休の直前だった。

 無人であるはずの部室から途切れ途切れに聞こえてくる嗚咽。よくよく耳を澄まなければ聞こえなかったであろうその声に、柳は出ていこうとしていた足を止めた。

「誰かいるのか?」

 途端にしん、と静まり返る部室。
 ほんの少しの好奇心に任せて、柳は部室の中を一回りしてみることにした。

 電気をつけていない部室は薄暗いが、どこに何があるくらいかは容易にわかる。
 柳が個人ロッカーの近くにきたときに、一瞬息を飲む気配がした。

 柳はロッカーの奥の方へ行き、丁度入り口から死角になって見えないスペースへ視線を移した。

「……仁王?」

 そこにいたのは涙で顔をぐちゃぐちゃにした仁王で、それは普段の仁王からは考えられない状況だった。
「どうしたんだ?」
「……かまわんで。ほっといてくれてかまわんから」
「そんな縋るような目で見られて、放っておけるか」

 柳は仁王の真っ白な髪をかきあげて、目に溜まった涙を丁寧に拭った。

「事情を話せとまでは言わないが……一人で泣くのはよせ。辛くなるだけだ」

 そう言った途端に折角拭った涙が再び溢れてきて、仁王は柳に体を預けて思い切り泣いた。やはり声は押し殺したままだった。





「この髪はな、地毛なんじゃよ。よう脱色したて、勘違いされんのやけど」

 仁王にとってそれは、かなりのコンプレックスだったらしい。
 仁王の話を要約すれば、元々仁王は代々色素の薄い子どもが生まれやすい家系で、ごく稀に仁王のような真っ白な子が生まれるらしい。
 幼い頃から仁王はそれをコンプレックスにしていて、クラスメートにからかわれたりする度に一人泣いていたそうだ。

「俺の髪を綺麗じゃていうてくれたんは柳が初めてなんじゃ」

 柳にぎゅう、と抱き付いて仁王が甘い声でそう呟く。そんな仁王の髪を梳きながら、柳も同じく甘さをはらんだ声音で仁王の名前を呼んだ。
「好きじゃ、」
「知っている」
「キスしたいき」
「構わないが」
「ほんと?」
「本当だ」
「じゃあ参謀からして」
「……わかった」

 そっと重なった唇は優しくて、甘くて。

 仁王を包み込んでくれる腕は、酷く温かい。







(この現実から、すべてから守ってくれる?)



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青様より10000hitリク、柳×仁でした!
弱メンタル仁王を書くのが思いの外楽しかったです。ご期待にそえたかどうか若干の疑問が残りますが…(汗

ではでは、素敵なリクエストありがとうございました!


2012/6/2
素材はその一瞬のために死ね様より

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