■ 溺れたのは誰だった?

脱色された髪を指に絡めて、柳は小さく溜め息を吐き出した。

「仁王……此方に顔を向けろ」
「嫌じゃ、」
「……何故?」
「今はこれやってるき、忙しいんじゃ」

机の上に置かれたクロスワードパズルをとんとんと指差しながら、仁王は視線を離さないまま黙々とパズルを解き続ける。
読書用の本もあり手持ち無沙汰というわけではなかったが恋人を目の前にして何もしないというのも非常に勿体無い話である。

「仁王、」
「だ―か―らぁ、今忙しい言うとるじゃろ―」
「余り俺を放っておくと痛い目に遭うぞ?」
「そんなことゆ―て脅してもムダじゃ。もうその手にはのらん」
「ほぅ……そんなに虐めてほしいのか。…ならばご希望通りに、」

そう言って柳はするりと仁王のシャツの中に手を突っ込むと、脇腹を下からなで上げるように指先でつつ…となぞった。

「ひゃ…っ!?」

思わず漏れた声に仁王が口元をおさえるが、柳はそうはさせないとばかりにキスを強行する。

「な…っやめんしゃい柳……ッ誰かきたら、」
「俺はおまえに警告したはずだが?」
「何しようと俺の勝手じゃき…っ!」

尚も不満げに此方を睨み付けてくる仁王に柳は余裕綽々といった風に笑ってみせる。

「別に俺が何をしようともそれを続ければいい話だろう?」

皮肉たっぷりにそう言ってやれば仁王はむぅ、と頬を膨らませて思い切り眉間に皺を寄せた。

「やっぱ柳はいじわるじゃ」
「おまえが可愛いが故だよ」
「そ―ゆうのを屁理屈っていうき」

仁王はとうとう観念して握っていたペンを机に置くと、かわりに柳の手を握る。

「これで満足じゃろ」

ちゅ、と仁王は柳の額にキスを落として、触れた瞬間顔を真っ赤にしてふい、とそらした。

「合格、といってやりたいところだが……まだ甘いな、仁王」
「――…ッ…!?」

さらに唇に深く口付けられ、身動きがとれない。

「つまりは仁王が俺を好きなように、俺も仁王が好きだということだ。重々肝に銘じておいてくれ」

「俺はそんなこと言っとらんき」
「しかし顔に書いてあるぞ?」
「うそじゃ」
「嘘だよ」


のらりくらりと柳の手の上で言葉巧みに踊らされて、そうとはわかっていても術中に堕ちていく。

逆らえないのはやはり相手が柳だからなのだろうか。

そんなことを考えている内に、ブレる思考の中でもう一度口付けを交わした。





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ことろ様へ相互記念品として贈らせていただきます。


2012/5/16
御題は誰花様より

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