■ ひとり趣味

※仁王が乙女です


幼い頃から姉貴に何かと女の子の服をとっかえひっかえ着せ替えられていたせいか、いつしか仁王には女装癖がついていた。
きらきら、ふわふわ。生クリームをかけたみたいな甘い雰囲気が大好きで、姉貴の服を貰ったり自ら通販で購入したりするのがなかば習慣化していた。
無意識の内に部屋は俗に言う“可愛いもの”で埋め尽くされていき、最終的には本当に女の子みたいな部屋になってしまった。正直にいうと居心地は最高だ。
ピンク色を基調とした部屋のあちこちにおかれたぬいぐるみや、母親から譲り受けた化粧台。姉貴に伝授してもらったので一人で化粧は完璧にできるし、ペテンをするときにも化粧は欠かせない。いつしか並以上の女子スキルを身に付けた仁王であったがけして女装趣味を誰かにバラすということはしなかった。
学校では一般男子としてふるまっているし、仲のいい奴に気持ち悪がられたり幻滅されたりするのは絶対に嫌だ。
そんなこともあって自室という密閉された空間でしか仁王が女の子にどっぷりと浸かれる時間は存在しないのだ。残念ながら。


「そういえば、」

部活が終わり部室で着替えている途中、柳が閃いたとばかりに仁王にある提案を持ちかけてきた。

「今週の日曜日、仁王の家にお邪魔してもいいか?」
「駄目じゃ。俺んち基本散らかってるき余所ん人呼べんのじゃ」
「別段散らかっていても大して問題ではないのだが……ほら、仁王は何度もうちに来ているのに俺が仁王の家に行ったことはないだろう?好奇心というわけではないが恋人の部屋に行きたい、というのは別に不自然ではないと思うし」
「駄目なもんは駄目じゃ。絶対駄目!」

そこまでいうのならば仕様がない、と柳は大人しく引き下がったが対する仁王は余りの緊張に心臓がはちきれんばかりにどくどくと脈打っていた。

(あやうくバレるところだったき……!)

あんな部屋を見せてしまえば流石の柳も幻滅するに違いない。

「まあ頭の隅にでもおいて考えておいてくれ。…まだ諦めたわけではないからな」

にやりと意味深に笑う柳に仁王の心臓が再び飛び上がった。
本当に飽きもせず心臓に悪いことをしてくれるものだ。

仁王は周りに気付かれないよう小さく溜め息をついた。




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