■ あとは堕ちるだけの満月

月明かりが淡く室内を照らし出す。

揺れるカーテンの隙間からこぼれる光は仁王と柳の輪郭を僅かに象って、幻想的とまでとはいかないがどことなく不思議な雰囲気を醸し出していた。

「今日のお月さんはえらくきれいじゃ」
「……そうだな、」

ベッドの上で抱き合う格好で二人は窓の外に目をやる。住宅街の上にぽっかりと浮かぶ月は時折雲の切れ間から顔を覗かせながら道行く人を、沈んだ街を沈黙しながら黙々と照らしていた。

「こら仁王、あまり月ばかり見ていると直にさらわれてしまうぞ」
「月に帰ったんはかぐや姫やき、俺は月に行ったりはせんよ」

昔話に出てくる宇宙人は最後には月に帰ってしまったが、仁王は宇宙人でなくれっきとした地球人だ。だから何の心配もいらないのだ。

「でも、もしかしたらおまえを見初めた輩が月へ連れ去ってしまうかもしれないぞ?」

だからあちら行かないように俺がずっと抱き締めておいてやる、と柳は笑った。
そんな柳に仁王は急にくすぐったい気持ちになって、顔を赤くして俯いてしまう。

「柳はなんでそん恥ずかしいこと平気でいえるんじゃ……」
「それだけおまえのことが好きだということだ」


それだけ言って柳は片手でカーテンを閉めてしまうとそのまま仁王に口付けを降らせた。

「月が堕ちるまでは、絶対に離さない」






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2012/5/8
御題はカカリア様より

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