■ 闇がしく手を引いた

 合わせた唇の先から、体がどろどろに溶けていくようだ。

「……ッ、や…ぁ…っ」

 ぞくぞくするような背徳感に、快感が高まる。“イケナイ”ことをするのは、好きだ。それは本能が求めているのか、それとも。
「あまり煽ってくれるな仁王」
 余裕のなさそうな柳を見て仁王は妖艶に笑う。余裕の中に僅かな欲をはらませて、ぺろりと唇を舐めた。
「よゆ―、なくしちゃる」
「それは俺の台詞だ……仁王」
 輪郭を指先でなぞって、鼻先が触れそうな距離まで顔を引き寄せる。
「誘うのは十八番じゃよ、」
「……ならばその気にさせてみろ」
「そんなこというて、もう興奮してきとるくせに」
 仁王は柳のベルトに手をかけると、片手で器用に外していく。
「まったく……そんな生意気な口をきいていたら、」
「きいたら……どうなるんじゃ?」
「……わかっているだろう?」
 勢い良く押し倒されて、視界がくるりと反転する。
 絡めた舌は予想以上に熱くて、鼓動が速まっていくのが自分でもよくわかった。

「ん……ふぁ…っ」

 頭の底からどろどろに溶かされていく。激しいわけでもないのに、ゆっくりと甘く毒されて。

「本当におまえは……十八番というだけはあるな」
「……参謀?」
「ほら、こっちへこい」

 柳に抱き寄せられて、胸にぴたりと頬があたる。

「……すきじゃ、」
「俺も」

 浮気だという事実さえ忘れてしまうほどに、罪悪感さえも薄れてしまって。

「今から俺が、おまえのすべてを染めてやる」

 だからもう奴の元へ帰ってくれるな、と。眼鏡をかけたチームメイトを頭の隅に思い描きながら柳はさらに口付けを深めた。



end.
2012/5/6
2013/3/13 加筆修正
御題:Aコース



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