■ 嗚呼、コレは独占欲だ

 噛み付いた首筋から一筋の血液が流れた。同時にこぼれた呻きを忍足は跡部の唇を塞いで飲み込む。

「いてぇんだよバカ侑士ッ!」

 思い切り突き飛ばされてなお忍足は跡部を羽交い締めにする。
 跡部は抵抗に抵抗を重ねてようやく忍足を床に押し付けたが忍足の表情はやはり余裕で、それが気に食わなくて跡部は悔しさのあまり仕返しのように荒く忍足に口付けた。

「そないに嫌がらんといて……非道くしたなるやろ?」
「……こんの性悪S野郎……っ」
「なんとでもいいや。今の景ちゃん、怯えた子犬みたいでごっつ可愛えよ」

 瞳の奥で不安の影が揺れる。
 なんだかんだ言っていつも甘やかしてばかりいるから、少し意地悪しただけでこれだ。
 甘えたがる跡部も好きだけど、怯えて虚勢を張る跡部も捨てがたい。
 要は跡部のすべてが好きで、故に色々な表情を見たい。
 綺麗に整ったカオが苦痛に歪む様はなかなかにクるものがあるし。
 美人は何をしても美人なのだ。


「侑士……っな、で…っ」
「ん?」
「俺様が一体なにしたっていうんだよ…ッ!」

……驚いた。

 瞼にうっすらと張った透明の膜。あと一回でも瞬きをしてしまえば途端にこぼれてしまうだろう粒。
 そう、跡部が泣きかけている。あまりに意外すぎる展開に忍足は内心かなり興奮していた。

「俺のこと……嫌いになったのかよ…!」
「…なにいうてんの、好きにきまってるやん。……あぁもう、景吾にはかなわへんわ」

 跡部を力の限り抱き締めて、忍足は最大限に優しく跡部の震える唇に口付けた。

「ちょっとからかっただけや、……嫌いなんて絶対ならへんから」
「……嘘じゃねぇだろうな」
「おん、約束するわ」

 ずい、と差し出された小指に小指を絡めて、忍足はもう一度跡部を抱き締めた。





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2012/4/12
御題はポケットに拳銃様より

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