■ 心配されるのは嫌いじゃない

 痰の絡んだ嫌な咳が不規則な間隔をおいて喉からもれる。
「ぅ゛…、ん…っ」
 喉に異物か引っかかっているような違和感。まあ俗に言う風邪、というやつに違いなかった。
 近頃新しい練習メニュー作りに没頭する余り生活習慣が乱れ気味であったのだが、その弊害が思いの外はやく跡部の体に顕著に表れた、ということなのだろう。

「大丈夫か景ちゃん?熱あるんちゃうか?」
「これぐらい平気だ」

 風邪くらいで部活を休むわけにはいかない。
 跡部はさっさとジャージに着替えると忍足を放ってテニスコートに向かう。
「あんま無理したあかんって―」
 忍足の話は耳にもいれてもらえず、そのまま無視されてしまった。
 どうしても嫌な予感は拭いきれず、忍足は不安を抱えたまま跡部の後を追った。



 跡部が倒れたのが部室を出て大体三十分後ぐらいで、むしろよく三十分も立ち続けていられたな、というほどの高熱によりすぐに保健室へと担ぎ込まれた。

「だから無視したらあかんって言ったやんか」
「…うるせぇ」

 ほんのりと顔を赤く染めた跡部が苦しそうにこちらを睨み付けてくるが、潤んだ瞳のせいで逆に忍足を煽る結果になってしまっていることに跡部は気付いていない。
 冷えたタオルを額にのせれば跡部は気持ち良さげに素直に目を閉じた。

「今日はゆっくり休み。体ちゃんと直してから部活でたらええんやから」
 どうせ練習メニュー作ってて徹夜でもしたんやろ?と見透かしたようにいう忍足に跡部は悪いか、と不満げに返す。

「後輩思いなんは構わへんねんけどなぁ…やりすぎは禁物やで」

 ま、景ちゃんのそういうとこ、俺好きやけど。

 それだけ言って忍足は跡部の額を優しい手つきで撫でつけた。





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2012/3/17
御題は邂逅と輪廻様より

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