■ 零れる言葉を拾い上げて
手は握り締める前に振り払われる、それが日常。
恋人みたく手を繋ぐなんて事は跡部のプライドが許さないらしい。そんな女々しいことできるか、と一蹴されてしまえばもう為す術はない。
「ちょっとだけでもあかんの?」
「嫌なもんは嫌なんだよ」
同じ様な会話を幾度ともなく飽きることなく繰り返す忍足であったが、そこまでして手を繋ぐという行為を否定する跡部の考えをいまいち掴みきれずにいた。
「めっちゃ綺麗な手してんのに……」
誰よりも努力の痕が残された傷だらけの手を忍足は酷く好んでいる。白魚みたいな女っぽい手よりも触りがいもあるし、節くれ立った指を撫で回すのも好きだし。だからこそ手を繋ぎたいなんて衝動にかられるわけで、それこそしょうがないことだと思いたい。やましい気持ちなんてないんだから問題はないはずだ。
「なあ一回だけでいいから…あかんの?」
「今日はいつにもましてしつけぇなおまえ、」
「しゃあないやん、景ちゃんに触りたいって思うのはそんなあかんことなん?」
幸い、掴んだ手が振り払われる気配はない。
「なぁ、あかん?」
跡部が斜め下四十五度からの上目遣いが苦手だということは既に立証ずみである。
「そこまでして手なんて繋ぐ意味あんのかよ」
「恋人やったら手繋いで当たり前や。…もしかして景ちゃん、知らんかったん?」
「……知るかあほ」
奪い去るみたいに取られた手はしっかりと跡部が握って、これで満足かと言わんばかりにそっぽを向かれた。
(もっと素直になったらかわええのに―)
(うっせぇ殺すぞ)
(――照れてんのもかわええ……ッ)
---
2012/3/9
御題はDiscolo様より
[
prev /
next ]
222/303