■ 甘やかに失速

 見覚えのある後ろ姿が目に入るなり忍足の足は自然と駆け足になっていた。
 距離は大体二十メートル程。全力疾走で走ってもいいが如何せん人が多いから危険…―なんてことを考えている内に跡部の姿は人混みの中に沈んでしまった。
 必死に目を凝らすが完全に見失ってしまったようで、忍足はがっくりと肩を落とす。

「プライベートで偶然会うなんてロマンチックなこと滅多にないんやけどなぁ……」

 少女漫画の読みすぎだろうか。しかし恋人を見失うとはなかなかに悔しいことをした。

 ……そもそも、跡部は一体こんな所に何をしにきていたのだろうか。
 使用人に言い付ければ何だってものは手に入るから買い物の線はない。誰かと遊びに行くとか。…遊びに行ける友達なんて跡部にいただろうか。
 跡部に対しかなり失礼なことを考えながら腕を組みつつ忍足はう―んと首を捻る。
 暫くすると考えるのにも飽きて、商店街の人並みに揉まれながらも思考が今晩のおかずに移りかけた、その時だった。

「あ!忍足だ!」

 少し高めの声が忍足の名前を大声で呼ぶ。周りの人々の冷たい視線が突き刺さり他人のふりをしたい思いがせり上がったが、なんとか堪える。
 それにしても、あの声は――

「なんで幸村が東京に…―って、なんや、跡部も一緒か」

 にこにこと笑みを崩さない幸村を余所に跡部は少し機嫌が悪そうだ。
 さっきの後ろ姿はやはり跡部だったのだ。隣に幸村がいたのは予想外ではあったが、これはかなり美味しい展開である。

「公共の通路のど真ん中で大声出すんじゃねぇよ」
「え―だって忍足見失っちゃいそうだったからさ―」

 平然とそう言い放つ幸村と依然ご機嫌斜めな跡部に交互に視線を移しながら、忍足は今更過ぎる疑問にぶち当たる。

「なんで幸村と跡部がこんなトコに二人っきりでおったんや?」
「えっとね、秘密―」
「秘密て、なんやそれ。俺だけ仲間外れかいな」
「だって言ったら跡部に半殺しにされちゃうんだもん」

 ね?と幸村に聞かれ跡部は曖昧に頷いて肯定した。
 よくわからないが幸村に口答えしたら何をされるかわかったものじゃないので忍足は取り敢えずそうか、とだけいっておいた。



end.
-----
続けようとして挫折しました。


2012/2/26
御題は自惚れてんじゃねぇよ様より

[ prev / next ]

220/303
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -