■ 振りむくな少年
ばきゅん、と気の抜けるような効果音を口にしながら忍足が指先をこちらに向けてきた。
「……」
「そんな冷たい目せんといてや景ちゃん―」
相変わらずよくわからない忍足の行動にいつもながらのスルーを決め込む跡部にひどいわぁと忍足が口を尖らせる。
「地元やったらみんなわりとええリアクションしてくれんのに……」
やはり関東と関西とでは感覚的な何かが食い違っているのだろう。端から忍足に付き合う気は毛頭ないし、正直相手をするだけ無駄であると思っている。
忍足は仕切りに酷いだの冷たいだの文句を言ってくるが放っておいたら直に黙るので特に問題はない。
そう、そんな日常の何気ない一コマで終わるはずだったやり取りの隙間。
「なぁ、どうやったら景ちゃんは俺のこと見てくれんの?」
ふいに鼓膜を震わせた忍足の台詞に跡部は目をぱちくりと瞬かせた。
「いっつも景吾は俺より先のことばっかり見て、一人でさっさと先行ってまうやろ」
何が不満だ、と言いかけた手前、忍足が思いの外真剣な眼差しを向けてきたので何も言えなくなった。
「偶には俺も見てや」
「そんなことしたら調子乗るだろ、おまえ」
「ええやんちょっとぐらい」
「……断る」
焦って背伸びして、先を目指して。
でもそんなおまえに着いていくのも楽しいのも事実やで、と。
思っても、言わない。
end.
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2012/2/15
御題はHENCE様より
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