■ うばいさってしまいたい、
紙の上を滑るペンの音に耳を傾けながら、忍足は跡部の書類仕事を片付ける様をじっと見つめていた。
「なぁ、まだおわらへんのそれ」
「見ればわかるだろ。今日中に片さねぇと上がうるせぇんだよ」
「でも期限は今週中いうてたやん」
「期限ぎりぎりに出すのは俺のプライドが赦さねぇんだよ」
跡部は忍足と話しながらも驚くべく速さで書類を片付けていく。それはそれは見事な手さばきで。
そんな跡部の隣で忍足はだらりと足を投げ出して、革張りのソファに体を預ける。
このまま寝てまいそうやな、とひとつ欠伸を零したところで跡部がペンを置く音が聞こえた。
「おわったん?」
「いや、まだだ」
「やらんの?」
「少しぐらい休憩しても罰はあたらねぇだろ」
「まぁ、そうやけど」
そう言いつつおもむろに跡部が忍足の寝そべっているソファに座る。
「え、なに?これは襲ってええってことなん?」
「馬鹿、んなわけあるか」
ぐい、と伸びをひとつした後、跡部は忍足の膝に身を預け軽く目を閉じる。
「十分経ったら起こせ」
そのまま動かなくなってしまうのだから忍足は為す術もなく硬直してしまう。
――いやいやいや、
目を閉じる直前、跡部は何かを思い付いたような表情をしたかと思うとあろうことか忍足の膝に自らの頭を乗せた。
――これっていわゆる膝枕……てえぇええぇ!?
あの跡部が、あの跡部(大事な事なので(ry)が忍足に身を預けてくるなんて何か裏があるとしか考えようがない。
跡部はこうも素直に甘えるような奴ではない。そんなことは百も承知である。
やはり試されているのだろうか、忍足の理性を。
交錯を繰り返す思考は収束に向かうはずもなく縦横無尽に忍足の脳内を掻き乱す。
それを知ってか知らずか、跡部は規則的な寝息をたてながら無防備に忍足の膝の上で眠り続ける。
「いつもこんな風に素直やったらええねんけどなぁ……」
外に軽くはねる髪をそっと撫で付けて、忍足は膝の上の確かな体温を存分に味わうことにする。といっても十分経つまであと二、三分程しかないが。
「景吾、好きやで」
我ながら、溺れていると思う。
うばいさってしまいたい、
(おまえの全部を、俺の物にしたい)
end.
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悪戯半分に膝枕してもらったら思いの外忍足が狼狽えて同じく跡部も狼狽えるっていう。
2012/2/14
御題は自惚れてんじゃねぇよ様より
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