■ 寂しいとかじゃねえよ

 忍足が学校に来なかった。
 隣の空白がやけに気になって、一日中上の空で。
 今いち本調子が出ないものだから更に苛立ちに拍車をかけて、跡部は見るからに不調といった感じだった。
 周りは理由なんて一目瞭然だから突っ込んで話しかけたりなんかは絶対にしない。関わるだけ面倒だし、一方的な被害を被るのが目に見えているからだ。

 部活中はわりと普通(普段からスパルタだから何がおかしいのかよくわからない)だったが心持ち早めに部活を切り上げ跡部はさっさと荷物を片す。
 いつもの時間の約半分で、跡部は部室を後にした。


 家に帰るなり何をするでもなくベッドに身を沈め、思考を一旦リセットする。
 アイツがいないだけでこの様か、と自嘲気味に溜め息を吐き出せば形容しがたい感情が喉の奥からせり上がってくるような気がした。
 体を投げ出したまま動かずにいるとコンコン、とノック音が部屋に響く。

「忍足様からお電話です」

 受話器を受け取りお手伝いさんが部屋を出るのを見計らって受話器を耳にあてる。

「なんだよ」
「いやぁ、一日放置プレイされて景ちゃんさみしがってるちゃうかなぁおもて」
「きるぞ」
「待って待って、待ってや冗談やておこらんといてや」
「簡潔に要件だけいえ」
「特に要件っちゅうことでもないねんけどな、景ちゃんの声聞きたかってん」

 電話の向こうで咳き込むのが聞こえてああこいつ風邪で休んだのか、今さらながらに認識する。

「最近は馬鹿にも感染するウイルスがあるんだな」
「なにを失礼な!俺やて風邪ぐらいひくわ」
「俺と電話なんてしてて平気なのかよ。まだ治ってねぇんだろ?」
「さっき熱はかったら8度8分やった」
「あほ、大人しく寝とけ馬鹿侑士」
「ちょっ折角電話したのにヒドいやん」 「病人は病人らしくとっとと病気治しときゃいいんだよ」
「そんなこと言うて、どうせ景ちゃん今日一日中上の空やったんちゃうん?」
「……おまえはエスパーがなにかか、」
「ほぅら。景ちゃんは俺がおらんかったらあかんやろ?」
「わかってんなら明日はぜってぇ学校来いよ」
「わかってる」
「……切るぞ」
「――――、じゃあな景吾」

「…っ……!!」


 電話越しに囁かれて顔が真っ赤に染まる。

「あの野郎……っ!」



―――愛してるよ、



 顔の火照りがおさまる気配はなさそうだった。



end.
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跡部が乙女にならないように用心しながら書いているんですが……こうなります。


2012/2/9
御題は自惚れてんじゃねぇよ様より

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