■ 愛は逃げない

 部室に漂う花のような香りに、真田が僅かに顔をしかめた。

「誰か、花でも持ち込んだか」

 真田が何度か鼻をひくつかせて、不思議そうに辺りを見回す。

「花なんてどこにもないぜよ」
「気のせいだろぃ」

 それでも真田はしきりに首を捻るばかりで、納得がいかない様子だ。


「あ、みんなお疲れ―」

 と、そこに部誌の整理を終えた幸村が部室に帰ってきた。刹那、真田は何かを確信した顔付きになる。

「幸村、」
「ん、なに?」

 真田が幸村に手招きをしてこちらにこいという意志を示して、幸村が不思議そうな顔をして真田に近付けば何を思ったのか急に真田が幸村の後ろ襟を掴んであろうことか首筋に顔を埋めた。
 若干汗ばんだ前髪やら吐息やらが首筋に押し寄せてきて幸村はもう気が気でない。

「なっなにしてんの真田……っ!」
「やはりおまえか、」
「え?まって何の話!?」

 幸村から体を離して一人で納得をする真田に、混乱気味の幸村は顔を真っ赤にして真田に説明を求めた。

「部室に花の香りが充満していたものでな。……花ではなくおまえの香りだった」
「きょ、今日は朝から花の手入れしてたからっ多分そのにおいなんじゃないかな…っ」

 明らかに挙動不審の幸村に真田は何の疑問も抱くことなくそうか、と頷いてみせる。その隣で大体の事情を把握した柳や仁王は終始にやにやと事の顛末を見守っていた。





(それで、一体幸村は何の香水をつけてきたんだ?)
(前に真田がすきっていってたやつ…ほんとさっきは心臓とびでるかとおもった……)



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2012/6/3
御題は魔女のおはなし様より

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