■ 君を汚すことはできない

 朝練の為いつもより心持ちはやく家を出て、直接部室に行けば既に真田が来ていた。
 真田は馬鹿みたいに早起きで有り得ない時間に学校に来るから幸村は真田より先に来れた試しがない。
 まあ部室の鍵を開ける手間が省けるからいいんだけど。

「おはよう真田」
「おはよう幸村、」

 当たり前だけど集合時間の一時間前なんてまだ誰も来ていない。

「そういえば前話してた新メニューなんだけどさ……」

 朝のこの時間は専ら部の方針や新メニューについて話し合うことが多い。
 部室の隅に申し訳程度においてある机を挟んで椅子に座ると、棚からノートを引っ張り出して新のページを開いた。

「あれなら練習に組み入れても支障はないと思うぞ?大して負担にもならんしな」
「じゃあメニュー追加ってことで、どこらへんに組むかはいつも通り蓮二に頼んどくから」

 ちらりと時計を見やれば、まだ練習が始まるまで大分余裕がある。

「俺たちは先にアップでもしておくか」
「別にいいけど……真田、ちょっと待って」

 幸村は真田にじっとしててね、と言うとぐい、と顔を近付けた。

「なっなんだ突然!」
「じっとしといてってば―」

 幸村の指先が真田の口端を引っ掻く。
 いまいち何が起こっているのかわからない真田はしきりに視線を泳がせた。

「歯磨き粉、ついてた」
「歯磨き粉?」
「そ。そのまま他の部員の前でてたら大恥かくとこだったよ」

 あえて言わないでおこうかとも思ったんだけど、流石に可哀想かなって。

 幸村はそう言ってにっこり笑って、対して真田は羞恥に顔を真っ赤にした。





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2012/5/30
御題は魔女のおはなし様より

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