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「驚かせちゃってごめんね」
悪びれた様子なんて微塵も見せずに、幸村が口だけで詫びる。
誰もがあまりの非常な事態に混乱を隠しきれない中、言葉のひとつさえ発せられない。
「真田を、迎えにきた」
その幸村の一言に柳の眉が僅かにあがる。周りのレギュラー陣も数拍おいて幸村の言葉の意を汲んだらしく、いよいよ困惑した表情をみせた。
「そ、それって真田副部長をつれいくってことっスか……!?」
「まあ簡潔にいうとそういうことになるね」
幸村自身苦しそうな顔をしているから、誰も幸村を咎めることなんてできない。
「期限はあと三日。三日たっても目を覚まさなかったら、真田は俺がつれていく」
幸村は最後に一言ごめん、とだけ言い残して瞬きの瞬間に消え失せてしまった。
* * *
三日たっても真田は目を覚まさなかった。
いつの間にか現れた幸村が、真田の前髪をかきあげながらしきりに時計に視線をやる。
「幸村がきたのが丁度昼の十二時だったから……あと三十分か」
張り詰めた空気が病室に流れる。
どうしようもない状況に、幸村とてどうしようもない。
あと、三分。
二分、
一分、
真田の瞼はかたく閉ざされたまま。
もう赤也は泣いていない。
「十、九、八……」
死のカウントダウン、別れの、カウントダウン。
「さん、に、」
いち。
ゆっくりと幸村が目を閉じて、
再び開いた。視線のその先、
「真田副部長……ッ!!」
真田の目が、うっすらと開かれていた。
その視界にはきっと顔をぐちゃぐちゃにした赤也が映っているのだろう。
「……なぁ、」
「俺の仕事はなくなっちゃったみたいだから、帰るね」
「精市……っ!」
「真田によろしく言っといて。俺はあっちでずっと待ってるからって」
そういうなり幸村の姿は霧散した。
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2012/4/30
御題はカカリア様より
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