■ 愛してるって10回言って

 幸村が泣いていた。それは酷く綺麗で、頬を伝う涙はまるで真珠のようだった。
 かける言葉なんて何も思い付かなくて、真田はただはらりはらりと落ちていく透明な粒を見つめるばかりだった。

「…側にいて」

 ただ一言、そう言われて、いよいよ動けなくなる。

「……、…」

 泣いている訳もわからないからどう慰めていいのかも検討がつかない。
 泣きじゃくる幸村は仕切りに嗚咽をあげながら真田に縋りつく。
 幸村のこんな姿を見るのは初めてで、驚きと共に戸惑いが一杯に広がっていった。

「幸村……?」
「もう少しだけでいいから…こうしていて、」

 涙で濡れた顔を伏せながら幸村が言う。真田は頷いて、幸村をさらに抱き寄せた。

「俺が出来ることなら…なんでもするが……?」
 躊躇いがちに幸村に言えば、静かに首が縦に振られた。

「じゃあ、」
「なんだ?」
「…あいしてるっていって」

「俺を愛してるっていってよ」

 予想外の幸村の要求に真田は狼狽えるが、男に二言はない。真田は静かに息を吸い込んだ。

「あいしてる」

「もっと優しく」
「…あい、してる」
「本当に?」
「あいしてるさ」
「俺も愛してるよ」

「俺は世界一真田に愛されてる」

「……幸村?」

 幸村が瞼を閉じた拍子に真田の胸によりかかった。
 数秒すれば微かに聞こえてくる寝息。
 どうやら泣きつかれたようだった。

「愛してる、か」


 愛なんてまだ知らない餓鬼が、精一杯背伸びをして手を伸ばす。


10



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2012/3/16
御題はJUKE BOX.様より

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