■ 遅刻寸前なんだけど

 軋みをあげる体を無理矢理起こしてベッドの足元に散乱していた服を手繰り寄せようとすれば、ご丁寧にも枕元にきっちりと畳んで置いてあった。
 隣にいたはずの真田の姿はない。きっと朝っぱらから素振りか走り込みでもしているんだろう。
 真田より後に起きる幸村のことなんて頭にはないんだろうか。折角の甘い夜を共にしても朝いないんじゃ余韻も味わえない。そんなの余りに酷い話じゃないか。
「さなだ……」
 一抹の寂しさを紛らわせるために意味もなく名前を呼ぶが、さらに孤独感を浮き彫りにするだけだった。
 寂しいとかそういう事も、本当は言ってはいけないのかもしれない。
 恋人同士なのだからそれぐらい許されて当然なのか、それともそうではないのか。答えはどこにもないし、もしかしたらもう出ているのかもしれないし。
 こうしてなにかしら思考していないと寂しさに押し潰されて駄目になってしまう。

真田、真田、……真田―……

 今すぐにでも抱きしめてほしい。甘い、甘い余韻を味わいたい。

「真田のあほ……」

「誰があほだって?」

 しわくちゃになったシーツを体に巻き付けてベッドの上を転げ回っていた幸村の動きがぴたりと止まる。

「あほ。あほ真田」
「……俺が何かしたのか?」

 この馬鹿、何もわかってない。
 急に沸々と沸きだしてきたそこはかとない怒りに幸村は真田の腕を思い切り引いて体勢をくるりと変えると、思い切り真田に覆い被さった。

「俺を一人にするなんて許さない」
「……寂しかった…のか?」
「そうだ。今頃気付いたのかあほ」

 真田は幸村以外にはけして見せないであろう優しい笑みをこぼすと、幸村をやんわりと抱き締めた。

「すまん…幸村……」
「……わかればいい」

 膨れっ面が照れ笑いに変わって、真田の耳元でやっぱり好き、と言えば真田の顔も赤くなった。

「ところで幸村、もうそろそろで支度をしないと遅刻してしまうぞ?」
「……え?ッ嘘!ってか七時回ってるし!!」

 打って変わって顔を真っ青にした幸村がばたばたと支度を始める。
「待っててやるから少し落ち着け。急ぎすぎてケガでもしてくれたら困るのだからな」
「そんなことより!真田俺の下着どこやった?」
「そんなこと俺が知るわけなかろう」
「嘘だ、昨日最後に下着をみたの真田に脱がされたときだもん」
「……探すのは後にして新しいのを出せ」
「………」
 ワイシャツ一枚姿でクローゼットを開き、引き出しを漁り始める幸村が少し動く度にシャツの裾が捲れて白い肌を見え隠れする。
 真田はなるべくそれを視界にいれないようにしたが既に遅く、自身は緩く勃ちあがりはじめていた。

「どうしたの真田?」
「…ッなんでもない」

 朝から見るには刺激が強すぎて、内心真田は頭をかかえていた。






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2012/3/16
御題はJUKE BOX.様より

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