■ 濡れた妖艶に口付けたい
夏場の醍醐味といえばやはり水泳実習だろう。それは単に柳生が泳ぐのが好きだからというわけではなく、恋人の水着が拝める、という不純な理由であったりする。
仁王はもともと小食なせいもあって病的に腰が細い。いつも抱きしめる度に折れてしまうのではないかと不安になるぐらい。そんな仁王が体のラインがくっきりとわかる水着を着るのだからそれをしっかりと目に焼き付けなければならないのは言わずもがなである。
「柳生、いくら水泳実習だからって仁王ばかり見てちゃいけないよ」
「ふふ、幸村君はなんでもお見通しですね」
「まあ気持ちはわからなくもないけど」
さっさと着替えを済ませてプール横の集合場所へ向かう。そこには既に仁王の姿があって、柳生は思わずこぼれそうになる笑みを必死に押し殺しながら仁王のもとへかけていく。
「仁王さん、」
「あ、やぎゅ」
肩越しに振り向いたアングルが絶妙で、柳生は思わず顔をそらしてしまう。周りに誰もいなければ途端に襲っていたに違いない。
「柳生、ゴーグル新しくしたん?」
片手に持っていたゴーグルを見て仁王が指摘する。仁王の言うとおり今年はゴーグルを新調した。度入りにしたのだ。
「以前使ったいたものが壊れてしまったので」
「ふーん、」
仁王の姿を眼鏡なしでもしっかりと見ておきたいから、なんて口が裂けても言えない。
「先生集合かけとるから、またあとでな」
「ええ」
水泳実習はクラスに関係なく実力に分けて行われる。柳生は一番上のグループで、金槌である仁王は一番下のグループだ。
小さい方のプールでぱちゃぱちゃとばた足の練習をしている仁王を横目に見ながら柳生は黙々と泳いでいく。
仁王の髪の毛の先からぽたぽたと水が滴っている。それをしきりに指先でくるくるといじりながら列に並ぶ仁王と偶然一緒になり、柳生は仁王に声をかける。
「少しは泳げるようになりましたか?」
「んー…やっぱり水ん中はこわいき」
「少しずつ慣れればいいですよ」
「ん、ありがと」
ほんのりと頬を染める仁王の腰にナチュラルに手を添えてつ、と腰のラインをなぞればぱしりと手をはらわれた。
「こーら、やぎゅ」
「すいません、つい」
今日は水泳実習で授業は終わりであるから、偶然を装って仁王をトイレにでも連れ込もうか、なんてことを考えて無意識に口角があがってしまった。
end.
2013/7/3
御題:自作
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