■ 最期の声は夏の吐息にまぎれた
「蝉が、鳴いている」
ふっと耳をすませてみれば確かに、向こうの方からジジジ、という鳴き声が聞こえた。
「少し時期がはやいな」
「可哀想にね、折角地上に出てきたっていうのに誰もいないなんて」
ジジ、と。そうして蝉の声が止んだ。
「彼の声を聴くはずだった仲間達はまだ地中の中で眠っているんだ。誰も彼の声は聞こえない。彼の声は誰に聴かれることもなく、一週間を終える」
それってとても悲しいことだと思わないかい?と蝉に同情するように幸村は悲しげに微笑んでみせた。
「俺は一人で死ぬのはいやだな」
「誰だって一人で死ぬのを望んだりはしないだろう」
「じゃあ真田は俺が死ぬとき、一緒にいてくれる?」
「ああ、ずっと一緒にいてやる」
蝉の声はもう聞こえない。彼の最後の声は、二人で聴き遂げた。たったそれだけでもせめてもの救いになればと、そう思った。
end.
2013/6/28
御題:自作
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