■ 好きとか嫌いとか
「ねぇ、真田はさ。本当は俺のこと好きじゃないんだろう?」
そう言う幸村の表情に色はなくて、真田は思わず息をのんだ。あながち間違っていないその事実を指摘されて焦るよりも先に、逆に冷静になる。無表情の裏はきっと泣きそうになっているくせに、あくまで自分が優位になろうともがいている幸村の姿はある意味滑稽で同時に愛しいとも思う。もはや真田が抱く幸村への思いは好きだとか嫌いだとかそういう次元の問題ではないのだ。真田は幸村の側にいなくてはならない、そういうものなのだ。
「幸村は俺のことが好きなのだろう?」
「何、悪い?」
言いようもない愉悦に浸るのはさしておかしいことではないはずだ。相手が幸村であるのなら、尚更。
「お前は何か勘違いをしているようだが、」
「……なに」
「俺がお前に抱く感情は“好き”等という言葉ひとつでは言い表せないのだ」
そう口に出してみれば急に気恥ずかしくなって、同じく呆気にとられて顔を赤らめる幸村の顔が直視できなくなって結局誤魔化すように抱き締めることしかできない。
「ようは真田のボキャブラリーが貧困だってことでしょ」
「……そうかもしれん」
「かもじゃなくて、そうなんだって」
好きだとか嫌いだとか、そんなもの気にするだけ無駄で、二人でいられるっていうそれだけで十分なんだと、そう再認識して二人で幸せを感じるのだ。
end.
2013/6/27
御題:自作
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