■ 君の優しさは甘い

 甘いにおいがする。それと、おひさまのにおい。やさしい、におい。

「おいジロー、起きろ」

 名前を呼ばれてぱち、と目を覚ますと目の前(寝ころんでいるから正確には目の上方)に跡部が仁王立ちしていた。雰囲気からして怒っているわけではなさそうだけれど、このまま放っておいてくれる雰囲気でもなかった。そもそも跡部が芥川を怒ったことなんて一度もない。跡部は芥川にだけは甘い顔を見せてくれるから。

「練習試合するから、審判やれ」
「俺は試合でれないのー?」
「後で好きなだけやらせてやる。今は人手がたりねーんだよ」

 今日の練習はレギュラーと準レギュラーしか参加していないから。なるほど、雑用係がいないわけだ。

「んーわかったCー」

 芥川はもそもそと起きあがるとジャージについた葉っぱやらなんやらをはらいおとしてゆっくりと立ち上がる。

「……今日、練習終わったら俺んちくるか?」
「うんっ行きたいC!」

 つくづく、跡部は芥川には甘い。その甘さはきっと跡部なりの優遇というか、つまりは芥川にとってそれはとても気持ちのいいもので。特別扱いをされているというただそれだけで芥川は満たされる。
 王様のいちばんのお気に入り。このポジションは芥川しかもっていない。その優越感が、たまらない。

「ねー跡部ー、キスしてE?」
「ダメだ、帰ってから」
「えー」

 芥川が小さく頬を膨らませると跡部は小さく笑って、しょうがねぇな、一回だけだぞ?といってほっぺたにちゅ、と小さく口付けてくれた。やっぱり跡部は甘いなー、なんて思いながら、芥川は青空に向かってゆっくりとのびをした。



end.
2013/7/9
御題:自作



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