■ さみしがりの横恋慕

 他人の恋人を横取りするなんて悪趣味だと思う。けれど手放しそうになった隙をついてからめとっていったのはズルでもなんでもなくて、ある意味で作戦勝ちというものではないのだろうか。周りからどう思われようと、手に入れるためなら正直なんでもよかった。紆余曲折を経た結果今跡部を腕の中に抱いているのは忍足で、その事実は変わらない。

「景吾」

 腕の中で微睡む恋人の耳元に、そっと名前を吹き込む。腫れた目元は痛々しくて、保冷剤でそれを冷やしながら忍足は何度も跡部の髪をすく。さらさらと指をすり抜けていく髪のどこか甘いような香りが鼻を掠める度に忍足の心臓がきりりと軋みをあげる。愛しくてたまらない。離したくない。すべてから守ってやりたい。跡部は弱い。その強固に守られた弱さをはじめてみたとき、一瞬で恋に落ちたのだ。

「もう、絶対はなさへん」
「……嘘つけ、」
「俺、景ちゃんがいたらええ。もうそれ以外なんもいらん。だから、俺んこと好きになって?」
「俺は……俺は宍……」

 他の男の名前出すなんて意地の悪いことせんといてえな、と忍足は跡部の口元に人差し指をおしあてる。

「宍戸はもう鳳のもんや。景ちゃんのはいる余地なんて残ってへん」
「んなこと言われなくてもわかってる」
「……じゃあなんで泣いてんの」
「泣いてねーよ」
「そーか、」

 忍足はそれ以上もう何も言わなかった。無言で忍足に身をあずけてきた跡部を抱きしめながら、抑えきれない笑みをこらえて、何度も何度もいったりきたりする規則的な鼓動をあきることなくずっと聞いていた。



end.
2013/7/9
御題:自作




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