■ 愛してるってささやいたら君はどんな顔をするんだろう
仲の良い友人というポジションは案外難儀なものである。まして想いを寄せる相手が超絶鈍感であった場合それは致命傷といえるだろう。遠回しに含みをもたせて告白まがいのことをしたところで、彼が気付くはずもないのだ。
「サエ」
くるりと振り向いてこちらを見つめる瞳が、なぁにバネさん、と自身の名前を紡ぐ唇が、酷く愛しい。
できるものなら今すぐにでも抱擁してあの唇を奪い去ってしまいたい。そんな邪な考えがいつも黒羽の頭の中を支配して、どうしようもなくなる。
「サエ、今日の放課後暇か?」
「特に用事があるわけでもないから暇だと思うよ」
「じゃあ、ちょっと付き合ってくれねぇか?」
佐伯はすぐにいいよ、と返事をしてなにかあった?と笑顔で聞いてくる。おまえに告白するためだ、なんて口が裂けても言えないから、黒羽はとりあえず笑って誤魔化しておいた。
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「折角だから他のみんなも誘えばよかったね」
海辺を二人で歩きながら、佐伯がふとそんなことを言うものだから黒羽は今から自分のやろうとしていることの突飛さを痛感し改めて苦々しい気持ちになる。
「たまには二人ってのもいいだろ」
「それもそうだね」
寄せては返す波の音が心地良い。海が一望できるベンチを見付けて、少し休憩しようと二人でそこに座った。
「何か話があるんじゃなかったの?」
「……あぁ、」
いざ本番となれば途端にいやな汗が出てくる。手のひらに滲んだ汗が滑った。
「俺さ、おまえのこと……」
もう顔すらまともに見ることができない。
「……?」
きょとんとした表情でこちらを見つめる佐伯が可愛くて仕方がない。言葉にするよりも先に、勝手に腕がのびていた。
「……えっ、バネさん……ッ?」
「ごめん、俺……おまえのことが好きなんだ」
「え…っと……」
困惑気味の佐伯の声が鼓膜をなでて、終わったな、と率直に思った。友人だと思っていたチームメイトに告白されて困惑しないわけがないではないか。気持ち悪いと軽蔑されてしまうだろうか、それとも冗談として笑い飛ばされるのだろうか。
黒羽は無意識に目を閉じた。酷く冷静な自分が、そこにいたはずだったのに。
「うれ、しい……」
しかし聞こえてきたのは思いもよらない台詞だった。思考回路が雁字搦めになって困惑している黒羽はうまく言葉がでてこなくて、そのまま佐伯を凝視する。
佐伯は黒羽の頬にそっと両手をそえて、そのまま唇を塞いだ。
「これが、俺の答え」
ほんの少し赤らんだ頬が、揺れることなく真っ直ぐと黒羽を見つめる瞳が愛しくて、黒羽はもう一度唇を重ねた。
end.
2013/3/12
御題:彼女の為に泣いた
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