■ 泣き虫な私に痛みを残して
「会いたい」
薄手の毛布を一枚を被って、真っ暗な部屋の中で携帯の明かりだけが佐伯の手元を淡く照らし出していた。
そう願ったところで望みが叶うわけではない。物理的に距離が遠すぎるのだ。千葉と大阪。会える時間が必然的に少ないのは最初からわかっていたはずだ。実際頭ではわかっていた。しかし気持ちだけは置いて行かれて、ついていけないのだ。
「しらいし……」
名前を呼んだところで返事が帰ってくるわけではない。そんなことも全て含めて、頭ではわかっている。
刹那に震える携帯。白石からの着信だった。
「……もしもし」
「白石やけど、佐伯クン今時間ある?」
愛しい恋人の声にふいに泣きそうになってしまって、佐伯は思わず息を詰まらせる。
「……佐伯クン?どうかしたん?」
「白石君のことを考えすぎて……どうにかなりそうなんだ」
「……会いたいん?」
「今すぐにでも、」
俺もおんなじや、という白石の声を聞いて、さらに涙がこみあげる。
「……白石君を好きになってから俺は、……弱くなってしまったんだ」
「弱くなったって、俺が佐伯クンのこと守ったるから……大丈夫や」
「……本当に?」
「おん、嘘はつかへん」
「………嬉しい」
離れていても気持ちはいつも側にあって、弱い自分でもすべて受け止めてくれるのならば何の杞憂もいらない。
ありったけの思いさえあれば、かまわないのだ。
end.
2013/3/10
御題:毒菓子
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