■ あなただから好き

 酒に弱いわけではないがけして強いというわけでもない。自分がどこまで飲めば潰れるかの大体の予想はつく。裏を返していえば自身の限界を知らずに飲む、という行為はなかなかに危険な行為なのである。

「……こら、幸村」

 真田の腰に抱き付いて離れようとしない幸村に声をかけるが一向に幸村が離れる様子はない。
 久し振りにレギュラー陣で集まり開かれた飲み会であったが、幸村は開始そうそうに酔いがまわってしまい真田は途方に暮れていた。
「まあ……幸村君もただ真田君に甘えたいだけなのでは?」
「幸村は酔うと面倒じゃからのぅ……」
 幸村と付き合っていることはレギュラー陣なら皆知っているし(中学から続いているのは真田と幸村のみである)他の連中も慣れた光景ではあるのでそこまであせりはしない。しかし今日はいつもと違って個室ではなくテーブル席である。要は身内以外の目もあるわけだ。
 それにしても、だ。幸村がここまで人をはばからないとは……真田は改めて酒の力の偉大さを痛感する。完全に二人きりにならないと幸村はけして甘えてこないものだと、勝手にそう思っていたがどうやらそういうわけでもないらしい。
 とろりと潤んだ幸村の目が真田をとらえ、腕に力がこもる。
「キスして……さなだ」
「……家に帰ったらな」
「いまじゃなきゃやだ」
「我が儘を言うな」
「どうせ誰も見てないし」
「そういう問題では…ってこら!やめんか幸村…ッ!」
 幸村は真田の膝の上に乗り上げると誘うように真田の唇の端をぺろりと舐めあげた。
「キス、したい」
「駄目なものは駄目だ」
「………けち」

 幸村は一度スイッチがはいってしまうとなかなか止めることができない。我慢、というコマンドがすっかり綺麗になくなってしまうのだ。
 真田は仕方がないのでなんとか幸村の機嫌を損ねないよう前髪をかきあげ、額にキスを落とす。正直これもあまり他人には見られたくない。
 周りの輩が大して気にもせずに談笑を続けているのを確認して、真田はほっと息をついた。

「さなだ、もっと」

 しかし真田の行為はどうやら裏目に出てしまったらしい。
「もっとしてよ、ね、さなだ」
 できるものならしてやりたい気持ちはやまやまだが如何せん他人の目がある場所ではあまり下手な真似は出来ない。
「帰ったら好きなだけしてやるから、だから今は我慢しろ」
「う―…」
 納得いかないらしい幸村は真田の腰に腕を回して抱きつきながら真田の胸に仕切りに額をこすりつける。
 こうやって真田の理性に揺さぶりをかけてくるあたりが本当に憎らしい。
「……幸村、少し顔をあげろ」
「?」
 きょとんとした目が真田を見つめる。
 刹那にちゅ、と真田の唇が幸村のものと重なる。続きは帰ってからだ、と言ってそっぽを向く真田に幸村は抱き締める力をさらに強くしつつ、目を細めるのだった。

**

「それにしても…幸村はいつも飲み屋であんなことしとるんか?」
「あんなことって?」
「しらばっくれても無駄じゃ。酔ったふりして真田にわがまま言うとったじゃろ」
「あ―…バレてた?」
「少なくとも柳と俺にはのぅ」


 あんまし真田を困らせるんじゃなかよ、と仁王が言えばわかってるよ、とわかっているのかわかっていないのか判断しかねる笑みを浮かべて幸村は微笑んだ。



end.
まゆか様リク、大学生設定、イチャイチャな真幸でした!
大変遅くなってしまい申し訳ありません…!
ひたすら幸村が我が儘言ってた感が否めませんがなんだかんだいって甘やかしてやるのが真田ですよね(笑)


リクエストありがとうございました^^
※まゆか様のみお持ち帰り可です。
2013/3/8
御題:たとえば僕が



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