■ いつまで逃げるつもりですか
吐き出した息はどこか熱をはらんでいて、やけに色っぽい。虚ろな焦点が結ばれた視線の先に一体何が見えているというのだろう。
「仁王、きいてる?」
声をかけてみても生返事が返ってくるばかりで、瞳の色は相も変わらず。何故仁王がこんなに上の空であるのか、理由なんて考えなくともわかるのだけれど。
「やなぎ」
びくんと肩が揺れる。ほら、図星だ。
「保健室をホテル代わりにするのはよくないと思うよ?本来体調を崩した生徒が利用する場所なんだから、」
「ち、ちが」
「じゃあ今ここでシャツ脱いでみてよ。きっとあちこちにキスマーク、ついてるでしょ?」
「……っ…、」
「ほら、脱げたら今の発言は撤回してあげる」
ただでさえ潤んでいた仁王の瞳からはあと一回瞬きをしようものなら溢れてしまうほど涙がたまっていた。幸村は仁王の泣く一歩手前の顔が好きだ。あまりにもあっさりと手に堕ちていく仁王は脆く、そして弱い。
「……ッ無理じゃ」
「ふぅん、じゃあ俺が脱がしてあげる」
そのまま身ぐるみを全て剥がして、先ほどできたばかりのキスマークの上からさらに痕をつける。
柳の証を上から塗りつぶすように、刻みつけていった。
end.
2013/3/4
御題:彼女の為に泣いた
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