■ 目線の先には君がいて

 彼とは全国大会で知り合った。綺麗なテニスをする人だな、と。第一印象はそんな感じだった。連絡先を交換して、多分その時には彼に堕ちていたんだと思う。時々メールや電話をするようになって、最初は週一ぐらいの頻度だったのがいつの間にかほぼ毎日になっていた。



「ねぇ白石君」
「ん?なんや?」
 電話越しでない、直接鼓膜を震わせる彼の声は佐伯をいっぱいに満たす。安心して、恋しくなる。
 お互い忙しいスケジュールの合間を縫って、時折こうやって会う。今日は前回会ってから大体1ヶ月半ぶりぐらい。
「あのさ、ひかれるの覚悟で言うよ?」
 喉の途中に引っかかって、うまく言葉が出てこない。すぐ隣で「どうしたん?」と言っている彼の声が、不思議とどこか遠くに聞こえるような気さえした。


「……好き、なんだ」


 ようやくしぼりだした声はほんの少し掠れていて、意味もなく佐伯は泣き出しそうになる。

「知っとるよ」

「……え?」
 てっきり気持ち悪いとかそんな類の言葉が返ってくると思っていたのに、実際は予想の斜め上の答えで。
「知ってたって……いつ、から?」
「最初っからや。初めて会った時から、ずっと知っとった」
 明らかに困惑した顔をしていたのだろう、彼が説明を付け加える。
「佐伯クン、恋してる女のコとおんなじ目しとったんや。……俺普段からようさんの女のコに告白されるから、わかるんや」
「気持ち悪いとか、思わないのか?」
「そんなことあらへんよ、」
 だって俺かて佐伯クンのこと好きやから、彼はそういうなり佐伯の唇にそっとキスをひとつふらした。佐伯の頭はもうパニック状態で、顔に熱が集まるのを感じた。

「これで両思いやな」

 そのまま彼にぎゅう、と抱き締められる。心臓がばくばくと波打って、きっと彼にも聞こえているに違いない。
「なぁ、もう一回キスしてもええ?」
 佐伯がこくこくと頷けば今度はフレンチキスではなくて大人のキスをした。
 彼のキスはとても巧くて、思わず頭がくらくらする。
「好きやで……虎次郎」
 不意打ちで名前を呼ばれて、さらに顔が赤くなる。
「俺のことも名前で呼んで?」
「く……くらの、すけ?」
「あかん……幸せすぎて死んでまいそうや…」

 何度も何度もキスをして、ほんの少しだけ大人の階段をのぼった。



end.
2013/3/3
御題:毒菓子



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