■ 奪ってしまえばあいつが泣くから

 触れてはいけないと思った。あくまで自分は仲の良いトモダチで、それは幸村や柳と同じポジションである。ブン太の特別を占有しているのは赤也。奴には恋人というポジションがある。
 いくら仁王がブン太のことを好きになったって、赤也がいる限りブン太が仁王のものになることはない。
 仁王だってブン太と手を繋いで、キスして、セックスして。そんな願望をえがいたところでかなわないことぐらいわかっているけれど。
「なぁブンちゃん」
「ん―?なんだよぃ」
「キス、しよ」
 ブン太がきょとんとした顔で仁王を見つめる。あたりまえだ、突然友人にそんなこと言われたら誰だってそんな顔をする。
「……冗談じゃよ。なん、本気やと思った?」
「…だよな!一瞬ガチで焦ったじゃね―か」
 ブン太の瞳の奥がわずかに揺れたのを仁王は見逃さなかった。仁王は時々こうやってブン太を揺さぶることがある。もしかしたら、もしかしたらブン太が赤也ではなく自分を選んでくれるんじゃないか、と。
「最近赤也とはどうなん?うまくいっとんの?」
「ん―それがさぁ……あいつ浮気してるっぽいんだよな―…」
「浮気?」
「そ、あいつ多分柳とできてる」
 思いもよらないブン太の発言に仁王はブン太には悪いと思いつつも少なからず内心喜んでいた。これをきっかけにブン太が自分のものになるかもしれないのだ、喜ばずにいられるものか。
「赤也もひどいことするのぅ……可愛い恋人がいるっちゅ―のに」
「別に最後に俺んとこに戻ってきてくれたらそれでい―し」
「……俺やったらブンちゃんにこんな顔させんのに……」
「それってどういう……」
「ごめん……もう無理なんじゃ」
 ぎゅう、と。そのまま仁王はブン太を抱き締めた。
「え……にお……?」
「ごめんブンちゃん……俺、ブンちゃんのことが好きなんじゃ……」
 案の定、ブン太の目には明らかな動揺が見て取れた。
「また……冗談だろぃ?な、仁王……」
「俺は……狼少年になりきれんかったんじゃ」
「……俺には赤也が…ッ…」
「ごめん、今は離しとうないき」
「仁王、俺。おまえの気持ちには」
「それ以上言わんとって、わかっとうから。それ以上言ったら唇ふさぐき」


 この思いが報われないことぐらい、最初からわかっていたはずなのに。



end.
2013/2/24
御題:彼女の為に泣いた



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