■ そう君はまるで天使

「赤也クン、おきや」

 合宿所の食堂の隅にあったソファでうたた寝をしていた赤也を起こそうと白石が赤也の肩を揺するが、赤也はわずかにくぐもった声を漏らすだけでそのまますぐに寝息をたてはじめる。ハードな練習で疲れが溜まっているのだろうが、流石にここで寝てしまっては風邪をひいてしまう。確か赤也の部屋は光と一緒だったはずだが……残念ながらどこの部屋だったかまでは覚えていない。
 とりあえず一時的に自室のベッドで寝かせてしまおうと白石は軽々と赤也を抱きかかえた。
 あまりに幸せそうな寝顔に自然と白石の顔もゆるむ。

 そのまま自室にたどりついたが部屋にはまだ誰も帰っておらず、幸村と不二の姿はなかった。
 赤也が目を覚ます気配はなく、規則的な寝息をたてながら胸を上下させている。
(こんな可愛い寝顔見せられてもうたら、変な気でもおこしてしまいそうや……)
 くせっ毛をかきあげ、白石は自身の額と赤也の額をこつんと合わせる。薄くあいた唇が、まるで白石を誘っているようだ。
「そんな無防備にしとったら…しまいに襲ってまうで?」
 輪郭を指先でなぞって、そっと唇を重ねる。白石はそのまま軽いリップ音をたてながらついばむようなキスを繰り返した。
「…ン、…ん……」
 赤也の睫がふるふると震える。起こしてしまったか、と少し申し訳なく思ったのも無駄だったようで、赤也はもぞもぞと布団の中で動いただけで完全に目を覚ますことはなかった。
「ほんま寝付きええなぁ……」
 今日はまだ風呂に入っていないが、このまま赤也をおいていくのも心苦しい。風呂は朝入るとして、白石もこのまま寝てしまうことにした。
 一人用に設計されたベッドは二人で寝るには少々狭かったが、白石が赤也を抱き込むように横になることでなんとかおさまった。
 そして白石はそのまま目を閉じて、腕の中の温もりを感じながら眠りに落ちていった。


**


(甘いにおいがする……)


 ふわふわとした意識が浮上して、赤也はうっすらと目を開く。
 自分の今の状況がいまいちつかめず、寝返りをうとうとするがそれは叶わなかった。
(……えッ…?)
 赤也が顔をあげればなんと目の前には白石がいて。なるほど、白石の腕が赤也の腰をがっちりとホールドしているから動きたくても動けないのだ。
 それにしても。これは一体どういう状況なのだろうか。確か赤也は食堂の隅のソファで居眠りをしていたはずだ。しかし目を覚ましてみれば目の前には白石がいた。
「ん……赤也クンおきたん…?」
「あ……の…ッこれってどういう状況っすか…?」
「あぁ、赤也クンがソファで寝とったから、風邪ひいたあかんと思て俺の部屋まで運んできたんや」

 赤也は混乱する頭を必死に整理しながら依然動けずにいた。心臓は早鐘のように鳴っておさまる気配をみせない。きっとこの心臓の音は白石に伝わってしまっているに違いない。
「どうしたん赤也クン、えらいどきどきしとんな?」
「ちっちがうっす!ただびっくりしただけで……ッ」
「ま、まだ起きるんにははやいし、もうちょっと寝よか」
「あのっ、お、おれじぶんのへやかえるっす!」
「今みんな起こしたらかわいそうやろ?」
「で、でもっ」
「赤也クンは俺と一緒に寝るのいやなん?」
「別にそういうわけじゃないっす!」
「なら別にかまわんやろ、な?」

 白石は赤也をさらに抱き寄せ、真っ赤になった赤也を優しくなでるとにっこりと笑う。

「な、キスしてもええ?」
「!?」
「キス、したいねん俺。赤也クンと」

 がんじからめになった赤也の思考はもう無茶苦茶で、唇が何度も開いたり閉じたりを繰り返す。

「あんましからかわないでくださ…!」
「からかってなんかあらへんで?」
 鼻先と鼻先が触れるか触れないかのぎりぎりの位置まで白石の顔が迫り、いよいよ赤也の心臓が爆発しまうのではないかと頭の隅で思った。
「なぁ赤也クン……キス、してもええよな?」
 あやふやな思考で赤也が浅く頷けば白石は何の躊躇いもなしに赤也の唇に自身のそれを重ねた。
「ふ…ぁ、んン…ッ」
 白石のキスは予想以上に巧みで、どろどろにとけきった赤也の思考には毒にしかなりえない。

「赤也クンがあんまり可愛いもんやから…もう我慢できんわ」






「あのさぁ白石、同室の俺たちへの配慮ってないのかな?」

 泥のように眠る赤也に布団をかけなおしながら白石が堪忍堪忍、とまったく悪びれた様子もなく幸村に向かって手を合わせた。
「うちの赤也に手を出したからにはきっちりと責任とってもらうよ」
「……俺、赤也クンのためならなんでもするで」
「……まぁ赤也も自覚はないにしろ白石のこと好きだったみたいだし、今回は目をつむってあげるけど」
「っていうか幸村君かて真田君とこいっとったんやろ?あんま人のこと言われへんのとちゃう?」
「………なんだろうどこでもいいから今すぐ五感奪いたい」
「ちょっとそれぐらいにしておきなよ二人とも……切原が起きたらそれはそれでややこしいことになるんじゃないかな」
「仲裁してる不二だって昨日は手塚のところに夜這いしてたわけだし、ここはお互い不干渉ってことにしないかい?」
「……僕はそんなことしてな……」
「首、痕ついてるよ」
 不二が慌てて首筋をおさえ、幸村が冗談だよ、と悪戯っぽく笑う。
「……ま、赤也クン起きるまでババ抜きでもしようや」
「俺ババ抜き強いよ?」
「のぞむところや」
「じゃあ僕が配るね」




 結局赤也が自ら目を覚ますことはなく、幸村に起こされ顔を真っ青にした赤也はその日ろくに幸村と、勿論白石とも目を合わせることはできなかった。



end.
2013/2/24
御題:自作



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