■ たとえばこの手に何も残らなかったとしても、きみを想った幸福をこの胸が覚えていればいい
「どうしよう蓮二、これ」
「……まずは何が起こったかを説明してもらおうか」
困惑を隠しきれないらしい真田とは裏腹幸村の表情はどこか楽しげで、あまりの二人の温度差に柳がわざとらしく溜め息を吐き出す。
「手が離れなくなってしまったんだ」
ほら、と幸村が手を差し出せば同時に真田が体勢を崩す。だから動く前は一言声をかけろと…、と真田が不満を漏らすが幸村はそんなのもおかまいなしに柳に見えやすいよう手をさらに前にやった。
お互いの手のひらと手のひらが密着し、どれだけ力をいれてもびくともしない。
「原因は?」
「それがまったくわからないんだよ…俺たちクラスも違うし、どうしたものかと思ってね」
「と言われても俺もどうにも出来ないぞ?とりあえず手は尽くしたんだろう?」
「勿論。……結局は徒労に終わったが……」
「……とにかく、これでは部活にも出られないだろうから今日のところは俺に任せろ。これからの予定はまた後で話し合えばいい」
「すまない蓮二……まさかこんな事態になるとは……」
「気にするな。しかしそれにしてもえらくおまえは楽しそうだな、精市」
「そりゃ恋人と四六時中手を繋げるんだから、一体何を杞憂すればいいのさ」
「俺はおまえのその前向きすぎる思考が偶にとても羨ましくなる」
「それはほめ言葉と受け取っておくよ」
**
真田と幸村のお互いの手のひらがいとも簡単にあっさりと離れたのはそれから数時間ほどたったころだった。
「結局なんだったんだろうね」
「俺に聞かれても困る」
「精市の呪いだったりしてな」
「え、なに。俺が無意識に真田と離れなくしたってこと?」
「おまえならそれぐらいのことはやってのけそうだと思ってな」
「……本当に俺に呪いをかけたのか……?」
「何を鵜呑みにしてるの真田。柳もそれっぽくいうのやめてよね!」
幸村は真田の手をとるともう一度手のひらを合わせる。
「俺は一生ひっついたままでもよかったけどね」
真田もまんざらでもない顔をしていたから、別段問題はないだろう。
end.
2013/2/12
御題:hmr
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