■ その顔、俺だけに見せて

 分かっていても、つい思考が偏ってしまう。

 つまりは幸村が自分以外の誰かと話していると心の隅が酷くもやもやするのだ。柳によれば人はそれをヤキモチ、若しくは嫉妬と呼ぶのだという。
 恋人の間にはよくあること、と柳は言うがやはり幸村が誰かにとられている時間というのは余り喜ばしいことではない。

「どうしたの真田。眉間の皺、スゴいことになってるよ?」
 話を終えたらしい幸村がふいに真田の顔を覗き込んだ。
 睫が縁取る瞳がじぃ、と真田を見つめてきて、真田は一瞬どきりとする。
「別に、何もないぞ」
 危うく声が裏返りそうになって、思わず咳払いする。幸村はそう、と言ってさっさと帰る準備をし始めた。
「真田、はやくしないとおいていっちゃうよ」
 幸村に声をかけられて、真田ははっと我に帰る。


 真田の独占欲は人一倍強いと思う。
 確固とした理由があるわけではないが、そう思う程に度々抗いようのない嫉妬心に駆られるのだ。
 幸村が側にいないと、幸村は俺のものでないと。そんな行き過ぎた独占欲が見え隠れする。そんな自分が恐ろしくもあり、同時に自分をそれほどまでにしてしまう幸村という存在を再確認するのだ。


「先に帰ると伝えておいてくれ、と幸村に頼まれた」
 柳にそう伝えられたのが放課後のことで、今まで何の前触れもなく幸村が帰ってしまったことがなかった真田は大分狼狽えた。
「そう、か」
 明らかに肩を落とす真田に柳が僅かに苦笑を漏らす。
「偶にはこういうこともあるだろう、そう気を落とすな弦一郎」
 気を落とすな、と言われても些か無理な話である。
 その日は結局一人で帰宅し、帰宅後に一応幸村に連絡を入れたが返事はなかった。



 次の朝、朝練が終わった直後に幸村を呼び出した。
「どうしたの?」
 真田は一瞬躊躇ったが幸村を見つめて、一呼吸おいた後に唇を重ねた。
「……ん―ッ…!?」
 驚きに目を見開いた幸村と視線がかち合う。羞恥の為かすぐに目を閉じてしまう幸村の後頭部に手を添えて、真田はさらに口付けを深めた。
「…ぁ、ど、したの?ねぇさな…っ」
 ようやく唇を離して、間髪いれずに思い切り抱き締める。それは骨が軋む音が聞こえそうなほどに、力強く。
「昨日、おまえがいなかったから」
「……寂しかったの?」
「………そう、だ」
 幸村は照れくさそうに笑って、急でごめんね、と謝罪の言葉をもらした。
「ちょっとした恋愛相談を受けていてね、」
「……恋愛相談?」
「これ以上は本人のプライバシーに関わるから言えないんだけど、」
「それは俺よりも大切なことなのか?」
「え?」
 言った瞬間にしまった、と思ったが時既に遅し。幸村はきょとんとした目で真田を見上げた。
「ヤキモチ、妬いてるの?」
「…悪いか、」
「ううん。真田はヤキモチなんて妬くタイプじゃないと思ってたから、なんか意外だ」
 どう答えて良いかわからない真田は視線を泳がせながら口ごもってしまう。
「じゃあさ。昨日のお詫びに、今日は一つだけ真田のいうことなんでもきくよ」
「男に二言はないぞ?」
「勿論、」
「そう、だな」
 真田は暫し悩んだ後に小さく幸村に耳打ちする。

――もう一度、キスしてくれないか


 重ねた唇はいつもより甘い気がした。



end.
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いつも通りぐだぐだです。
真田視点で書きましたがタイトルは幸村視点です。


2012/2/22
御題はポケットに拳銃様より


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