■ 背伸びで触れる唇が愛しかった

 二人きりの時間というのは一見あるようで案外少なかったりする。白石は部長というポジションで、つまりはテニス部をまとめる立場でそうそう自分の時間を割けないだろう。赤也はレギュラーといえども大した仕事があるわけではない。白石は見るからに多忙そうで、電話するのも思わず躊躇ってしまう。付き合い始めこそ毎日のように電話なりメールなりしていたがいつしかそれもめっきりなくなってしまった。

『赤也クン、今週末あいとる?』

 白石からそんなメールをもらったのがほんの数分前。自分でも驚きのスピードであいてるっす!と返信をすればしばらくしてから白石からの着信。
『今週末そっちいってもええ?』
 赤也はあまりの嬉しさに床を転げ回った後、震える指先で返信を打つ。
 会うのは2ヶ月ぶりだ。


**


「白石さん!」
 周りの目などお構いなしで大声で白石を呼び、左右に腕をぶんぶんと振れば白石がこちらに気付き、赤也の元へと小走りでやってくる。
 駅は人でごった返しているというのに一発で白石の姿を見つけた赤也に感心しつつ白石は赤也の頭をなでる。
「なっなんすか!?」
「なんでもあらへんよ」

 二人で映画を見た後で映画の感想を興奮気味に話す赤也に相槌を打ちつつファーストフード店で昼を済ませた。
 おしゃべりもほどほどに、二人は海岸へ行くことにした。赤也がどうしても見せたいものがあると言ったからだ。

「うわ、めっちゃ綺麗やなぁ…」
「でしょ?ここの夕焼けすっごくキレイだから、白石さんに見せたかったんす」

 水面のきらめきと夕陽の橙色のコントラストが絶妙で、それをバックにはにかむ赤也が一番輝いて見えた。

「あ、白石さん!目とじてください」
「……こう?」
「絶対あけちゃダメですよ!」

 そう言ってから少しの間があって、それから唇に柔らかい感触を感じた。
 白石がうっすらと目を開ければ耳まで真っ赤にした赤也の顔があって。赤也も目を閉じているので白石が目を開けていることに気付いていない。
 身長差をうめるようにのばされた爪先。白石は赤也の腰を抱くとちゅ、ちゅ、とついばむようなキスを何度も繰り返した。
「しっしらいしさ…っ?!」
「……俺なぁ、赤也クンに嫌われてもうたと思っとったんよ」
「……えっ?」
「最近全然電話もメールもしてくれんようになったから……嫌われたんかなぁ、て」
「違うッぜんぜんきらいとかそんなのじゃないしっ!!」
 白石を正面からぎゅう、と抱き締めながら赤也は白石の胸に顔をうずめた。
「白石さん部長だし…っ忙しいから俺に構ってるヒマないかもって……」
「……赤也クンは優しいな」
 白石の手のひらで頭を優しくなでられて、ふいに涙がこみあげてきた。
「俺あたまわるいし!ぜんぜんくうきよめないしからまわってばっかだし…ッ」
「赤也クンのそんなとこも全部ひっくるめて、俺は赤也クンが好きなんやで?」
 涙でぐちゃぐちゃの赤也の顔を拭ってやって、潤んだ瞼にキスをひとつ。
「いつでも電話していいし、メールしたってええんや」

 それが恋人ってやつやろ?そう言って白石は微笑んだ。



end.
2013/1/21
御題:hmr



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