■ いつもの君と違う味で

 気が付いたらすでに朝が訪れていた。昨晩の記憶は途中から途切れている。何をしていたのかなんて、腰に響く鈍痛が全てを物語っているのだが。

「やぎゅう……?」

 恋人の名前を呼べば、自分の声が思いの外掠れていて一抹の羞恥に襲われる。
「……」
 一糸纏わぬ格好でベッドから這い出そうとしたその時、寝室の扉がゆっくりと開いた。
「おはようございます仁王君、ご気分はいかがですか?」
「……おまんはえらく機嫌よさそうじゃな」
「仁王君はあまりよろしくなさそうですね」
 あたりまえじゃ、と返事を返せばそうですよね、と言って柳生が苦笑する。
「コーヒー?」
「いいえ、ホットココアです」
「じゃあよこしんしゃい」
「そもそも、これは仁王君のためにいれてきたんですよ」
「……ん、あんがと」
 疲労した体を少しでも癒やしたい。ベッドに座って甘い香りと共にココアを体に流し込めばチョコレートの甘い余韻が口一杯に広がった。
「少しは気分がよくなりましたか?」
「おん」
 そのまま一気にココアを飲み干せばすぐさま隣から柳生の手がのびてきて仁王からカップを受け取った。
 片付けにいくのかと思いきや、柳生はカップをサイドテーブルにおいて再びベッドに腰掛ける。
「どうしたん?」
「キスだけ…いいですか?」
「ん、ええよ」

 ちゅ、と唇に軽く口付けて、ついばむようなそれを何度か繰り返してから今度は深いものへと。
 何度も息継ぎをしながら長い長いキスを、気が済むまで味わった。

 甘い甘い、朝の余韻にひたりながら。



end.
2013/1/16
御題:魔女のおはなし



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