■ 最後のときめきは君にあげる

 夕陽が二人の影を引き伸ばす。二人きりで下校するのは久し振りのことで、幸村は有無も言わせずに真田の手を取るとそれがさも当然であるかのように指を絡めた。
「……こうやって一緒に帰れるのも、あと少しだね」
 卒業を間近に控えた二人にとってこの通学路は三年という間歩いたある意味で特別な場所だ。二人で同じ景色を見て、他愛のない話をして、そんななんでもないことが終わってしまうという事実がなんだかもの悲しかった。
「夕陽、綺麗だね」
「……ああ」
 一年生の春に、幸村がまったく同じ台詞を呟いたことを真田はふと思い出した。街を夕焼け色一色に染め上げる夕陽を見上げて一言、綺麗だ、と。
 幸村は酷く、澄んだ目をしていた。あの時とまったく同じ瞳。ビー玉のような、ふとした拍子に吸い込まれてしまいそうな瞳。長い睫に縁取られたその瞳に、真田は恋したのだ。
「……好きだ」
「夕陽が?」
「いや……おまえのことが」
 真田は幸村精市という男が、こんなにも好きなのだ。
 恥ずかしげもなくそんなことをさらりと言う真田に幸村は一瞬言葉が出なくて。
「俺が夕陽にさらわれないように、ちゃんと手つないでてよね」
「誰が離すものか」

 真っ赤に染まったお互いの頬を全部夕陽のせいだということにして、二人は思い出の散らばった通学路を踏みしめて歩く。



end.
2012/1/16
御題:魔女のおはなし



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