■ だめ、もっと

 幸村の目が見えなくなった。原因は今朝の練習時に頭にボールが直撃したことによるものらしい。医者によると一過性のものだから大事はないとのことだが…。
「本当に大丈夫なのか…?」
「へ―きへ―き。大体の人の気配は察知できるし」
 幸村の目が見えないことをいいことに練習を抜け出そうとした仁王と赤也は真田によってあっさりとつかまり放課後練習はいつも通りに開始された。
「ボールが飛んできては危険だ、俺が幸村の側につく」
「わざわざごめんね……苦労をかける」
 幸村はまるで見えているかのように部員たちに指示をとばしていく。ボールを打ち合う音だけで大体の状況を把握しているらしい。
 改めて神の子の恐ろしさについて一同が息をのむ中、一通りの指示を終えてようやく幸村は一息つく。

「真田」

「なんだ?」
「視界は暗闇なんだけどね、なんだかとても安心するんだ……とても、あたたかい」
「……そうか」
「きっと真田やみんながいるからだよ」
「あたりまえだ、皆でおまえを支えているのだから」
「本当は俺が引っ張っていかなきゃならないんだけどね」
「別段一人で背負い込む必要はないだろう?」
「…まあね」

 幸村はくすりと微笑むとねぇ真田、とまるで見えているかのように真田の方に向き直った。
「真田、俺の方向いて」
「……こうか?」
「だめ、もっと」
 真田が幸村の真正面に顔を動かした瞬間にぐい、と幸村に引き寄せられ気が付いた時には口付けられていた。
「こ、こらッ誰かに見られたらどうするのだ…!」
「ふふ…ごちそうさま」

 不意打ちで狼狽える真田が好き。確か以前に幸村がそんなことを言っていたのを思い出して、真田は思わず苦笑した。



end.
2012/12/27
御題は魔女のおはなし様より



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