■ 注ぎ込まれるのは、毒
「切原クンは柳君のことが好きなん?」
ほんの一瞬赤也が目を丸くして白石を見て、その後すぐに頬を赤く染めた。
恥ずかしいのか、視線を合わせないようにしながら赤也はゆっくりと首を縦にふった。
「普段は厳しいっすけど、二人きりの時だけはすっごい優しいんです」
この幸せな表情を、白石はほんの一言で壊すことができる。
「あんな切原クン。切原クンには言いづらいねんけどな……」
「なんすか?」
「俺、見てもうてん…柳君が幸村君とキスしとるとこ」
刹那に赤也の表情が凍り付いた。当たり前だ、自分の恋人が別の人とキスしていたなんて信じたくもない事実に決まっている。しかし白石の言っていることは嘘ではない。確かにこの目で目撃したのだから。
「う…嘘っすよ、そんなの何かの間違いですって…ッ!」
「残念ながら嘘やないねん…ツラいやろうけど…」
「そっそんなの信じないし、柳せんぱいは俺のことが……」
言葉を濁らす赤也の表情が一瞬曇ったのを、白石は見逃さない。
「なんか心当たりあんねやろ?」
しばらくの間唇を噛んでいた赤也はふいにふっと呟くように言葉を紡いだ。
「前……首に赤い痕ついてた」
「……そんだけか?」
「それだけじゃ…ないっす」
赤也は今まで抱えていた不安な思いを洗いざらい白石にすべて話して、話し終えた瞬間に泣き出した。
「柳せんぱいは俺のことなんてただの遊びだったってことっすか…ッ!!」
「ほんまひどいよなぁ……今は好きなだけ泣き、ずっと一緒におったるから」
優しく赤也の頭を撫でる手のひらとは裏腹、白石の口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
**
「白石、話がある」
案の定、白石が柳に呼び出されるまでにそう時間はかからなかった。
「赤也に何を吹き込んだんだ…?」
「別に、ほんまのこと言っただけやで?」
だって柳君、幸村君とも関係もってるよな?と白石が言えば柳の顔がわずかにひきつる。
「あれは精市が無理矢理…」
「でも赤也クン裏切ったことにかわりはないんちゃう?」
「……ッ…」
「赤也クンはもう俺のもんや、今さら足掻いたって遅いっちゅ―話や」
――柳先輩とはもう付き合えないっす。……俺も他に好きな人ができたから
なかば押し切られる形で幸村の相手をしていたのは事実だ。しかし柳の中では赤也が一番大切な…―
「今さら後悔しても遅い……か」
end.
2012/12/19
御題は追憶の苑様より
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