■ 分からず屋の愛情表現
公衆の面前での過度なスキンシップは禁止だと、何度言い聞かせても忍足は聞く耳をもたなかった。
「離れろ忍足」
「嫌」
「ここは部室だ。まだ部員も大勢残っている」
「別にええやん、この関係バラしても」
「いいわけあるか。部長として自ら風紀を乱してどうする」
「けち」
「後で好きなだけ相手してやるから今は我慢しろ」
「いやや」
これ以上何を言っても無駄だと判断した跡部は深々と溜め息を吐き、スルーの体勢に入ることにした。
「景ちゃん、景ちゃん無視せんといてや」
「……」
忍足に一番きくのは徹底的なスルーに限る。どう足掻いても相手してもらえないとわかれば流石の忍足も諦めるだろう、と。
跡部はさっさと着替えを済ませ、荷物をまとめて立ち上がる。
「バカ侑士、はやくしねぇとおいていくぞ」
「景ちゃんが意地悪するから悪いんや、今日は一人で帰る」
「……あっそ。じゃあな」
すかさず忍足が跡部の腕を掴んだ。
その腕を跡部が無言で振り払えば忍足が悲痛な叫びをあげる。
「なんでとめてくれんのや!そこはちょっと待てよ侑士俺が悪かったって展開になるはずやろ…っ!!」
「んな都合のいい展開になるわけねぇだろ」
「ひどい…ッひどいわ景ちゃん…ッ!」
「いいから俺は帰るぞ」
「……景ちゃんのあほッ」
「どうとでもいえ」
相手をしている時間が勿体無いと跡部がそのまま部室を出ていこうとしたその時だ。
「まって景吾」
ぐい、と腕をつかまれて跡部は反射的に後ろを振り向く。
瞬間、押し付けられた唇に跡部を含め部室内に戦慄が走る。
「………ッ!」
あまりの衝撃に言葉を発することさえ出来なくなった跡部は掴まれた腕を振り解くことも忘れただ呆然と忍足を見つめる。
「後始末はまかせたで」
そう言い残して姿を消した忍足を追いかける気力はもはや残っておらず、放心状態の跡部はその後宍戸や日吉によって慰められたわけだが。
その後一週間以上に渡り忍足が跡部に無視されたのは言うまでもない。
end.
2012/12/16
御題はilta様より
[
prev /
next ]
259/303