■ もう少しだけやかされたい

 思い切り甘えてもいいんだろうか。今まで甘えるなんて概念のなかった赤也は一人悶々と考え込んでいた。
 先輩たちはあくまで尊敬の対象であって、甘える存在ではない。部活でもプライベートでもそこは崩さない主義の赤也はどうしてよいのかわからず、最終的には頭を抱える始末で。
 白石本人がいいと言っているからいいんだろうか。いやもしかしたら社交辞令かもしれないし、関東と関西の感覚はやはり違うのかもしれない。
 そもそも甘えるといっても何をしていいのかがわからない。

「どうしたん切原クン、顔ごっついことなってるで?」

 悩みの種が最高に悪いタイミングでやってきた。
「なんでもないっす…」
「なんか悩みあるんやったらきくで?」
「……大丈夫ですから、今はほっといてください」
 とにかく今は一人にしておいてほしかった。悩みの根源に話すわけにもいかない。
「あんなぁ切原クン。甘えるってのはな、そない難しいことちゃうねんで」
 この人はエスパーなんだろうかと、赤也は驚いて白石の顔を凝視する。
「柳くんから切原クンが悩んでるって聞いてな、気になったからきてみてんけど……先輩やからいうて遠慮する必要はないんやで?自分のおもてることがあるんやったら素直に話してまい、ずっと楽になるさかい」
「……いっていいんすか?」
「な―んでもええよ。俺がきいたる」

 赤也は今自分が思っていることを洗いざらいすべて話した。白石は何も言わず時折相槌をうちながら最後まで聞いてくれた。
 甘え方がわからない、どこまで甘えていいのかわからない。甘えること自体に抵抗があるし、もうどうしたらいいのかわからない、と。
「だから俺、わからないんです……白石さんが優しくしてくれるのはすごい嬉しいけど、どう反応したらいいのかわからないし」
「別にそんな深いこと考えんでええんやって。自分がしたいおもたことを素直にやればいいねん。抵抗あるいうんやったら試しに俺に甘える練習したらええやろ?」
「じゃ、じゃあ……あの、ぎゅってしてもいいっすか?」
「ん?ええよ、おいで」
 白石の背に腕をまわして軽く力をこめると、白石の手が赤也の頭を撫でた。
「俺の前でやったら、好きなだけ甘えてもええから」

 ちょっと恥ずかしいけれど、それ以上になんだか嬉しくて赤也は白石さん、と呼んだ後に言葉にはせず小さくすきですと心の中で呟いた。



end.
2012/12/14
御題はたとえば僕が様より



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