■ 好きって云わなきゃ死んじゃうよ

 そういえば、と。

 ふわりと急上昇した思考は確かな疑問符を浮かべて幸村の脳内ぐるりとかき混ぜた。

 真田と付き合いだして大体半年ぐらい。恋人としてキスまでの段階は踏んだ。別にまだその先は望んじゃいないし、第一あのへたれ真田にそこまで求めてはいない。
 しかし、だ。
 彼の口から「好き」という一言を聞いた記憶が全くといっていいほどないのだ。それはもう綺麗さっぱり。
 割と記憶力のいい幸村に覚えがないのだから、実際に真田が言ったという事実はないのだろう。
 いつも幸村ばかりが思いを伝えて、それを真田が肯定する。意味的には好きと変わりないのだが、やはりはっきりと言われた方が嬉しいものだ。当たり前だけれど。

 じゃあ早速言ってもらえばいいや、と幸村の思考は単純に回路を巡り足は自然と部室へと向かっていた。

「さ―なだ!!」

 部誌をつけていた真田は驚いて顔をあげる。

「どうした幸村、そんな急に」
「あのさ真田、」

 すぅ、と息を吸い込んで、耳元で一声。

「好きって言って!」
「はぁ!?」
「だから好きって。ね、言って」
「そんな急に言われてもな……」
「じゃあ、言わなきゃ死んじゃう」
「……取り敢えず一度落ち着け、幸村」

 幸村はむぅ、と頬を膨らませる。それに対し真田は当然わけがわからないので終始困惑の表情を浮かべる。

「だって真田。俺に好きって言ってくれないじゃないか」
「言う機会がないだけだ」
「じゃあ今。今言う機会作ったから」
「いつにも増して横暴ではないか…?」
「そんなことない」

 たぶん言うまで帰してくれることはないのだろう。それがわかっているだけあって真田は心の中で深々と溜め息を吐き出した。

「言ってよ」

 さぁ今すぐに、と幸村は目で訴えてくる。



(――我が儘ばかり言いよって)


 気付けば真田は幸村の唇を塞いでいて、離し様に小さく好きだ、と呟くように降らす。

「……合格」

 俺も好きだよ、と再び唇を重ねられた。


end.
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幸村の我が儘をなんやかんやできいてあげる真田とか好きです。


2012/2/12
御題はAコース様より

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