■ 抱きしめきれない温度
「そんな格好でうろつくな」
「俺のバスタオルがないき」
しきりに水滴が髪から落ちて、床にぱたぱたと雫が散る。
風呂上がりの仁王は普段より色気が増してそれだけで困るというのにあろうことか仁王は服はおろかタオルさえもまかずにそのまま脱衣所から出てきた。
「じきに風邪をひくぞ」
「平気じゃ。……柳、俺のバスタオルどこにあるかしらん?」
「俺が知るわけないだろう」
柳は目のやり場に困りつつ浅く溜め息を吐き出した。
連休を利用して家に来ないかと仁王に誘われ、柳はその話にのった。家族は旅行に行っていて家には仁王しかいないらしい。つまりは二人きりの晩が過ごせる、というわけで。
「しゃあないから弟のかりるかの…」
仁王には警戒心というか、そういう類のものは備わっていないのだろうか。恋人の前で一糸纏わず平然とやってくるというのは些か不用心といえる。羞恥心以前の問題だ。
「仁王、」
「なんじゃ…?ってうわッ」
後ろから仁王を抱き締めれば柳のパジャマには当然ながら仁王の体に滴る水滴が染み込む。濡れるのにも構わず柳はそのまま耳元に唇を寄せていく。
「誘っているのか?」
仁王の腰のラインを人差し指でつつ、となぞるとようやく柳の意図を汲み取ったらしい仁王が顔を真っ赤にして抵抗を始めた。
「風呂はいった意味ないじゃろ!」
「終わったら俺が綺麗に洗ってやる」
「そういう問題じゃ…ッちょっ…まちんしゃい柳!」
「断る」
そのまま床になだれ込んで、あとはなし崩しだった。
end.
2012/12/5
御題はたとえば僕が様より
[
prev /
next ]
133/303