■ 見つめるだけで
わらせたいの

「何か用かの?」
「!」

 ずっと気付かないフリをしていたけれど、毎日のように痛いぐらいの視線を注いでくるクラスメイトに声をかけたのはほんの気紛れだった。
「別に、なんもないし」
「ふ―ん」
 会話はあっさりとそこで途切れ、よくわからないもやもやとした空気が二人の間に流れる。
 クラスメイト―確か丸井といった気がする―は多分仁王に好意を寄せているのだと思う。好きでもない人間をひたすら見つめ続けるなんていうのも変な話である。仁王自身自分がモテるという自覚はあったが大概は自ら告白してきたし、ここまで奥手の女子に出会ったのは初めてだった。
 仁王は今フリーの身であり、付き合う分には構わなかったのだがいかんせんお互いのことを知らなさすぎる。正直丸井に関してはかろうじて名前だけは覚えていた同じクラスの女の子、といった程度の認識で自ら進んで話し掛けにいくこともなければ当然のように向こうからアプローチをかけてくることもなかった。



「丸井って絶対俺のこと好きじゃよな?」
「……まあそうだろうけど、なんかあった?」
「あんまり見つめてくるもんじゃき、ちょっと声かけてみたんやけど逃げられてしまったんよ」
「あ―丸井はシャイだからね―…慎重にいかないとすぐに逃げられちゃう」
 紙パックのジュースを吸い上げながら幸村が興味ありげに仁王を見つめた。
「なに、丸井のこと気になるの?」
「……なんかあの目に見られとったら吸い込まれそうやき、なんか興味がわいたんじゃよ」
「まぁぼちぼちがんばってみたら?俺も気がむいたら手助けするし」

 幸村がそう言って空の紙パックを宙に放れば綺麗に弧を描いてゴミ箱に入った。
「たまには違った味の恋をしてみるのも悪くないよ」
 ふふ、と意味ありげな笑みをこぼして、幸村は姿を消した。


**


「なぁ丸井」
「……なに?」
「おまえさん、俺のこと好きじゃろ」
 いい加減待つのも飽きたので仁王自ら丸井の気持ちを聞きたいと、そう思って仁王は再び丸井に声をかけた。
 ぴしりと丸井の体が硬直する。信じられないといった面持ちで数回まばたきをした後、そのまま再び逃げ出そうとくるりと仁王に背中を向けた。
「にげんとって丸井、俺はおまえさんの気持ちが知りたいだけじゃ」
 丸井は首を左右に激しくふりながら仁王に掴まれた腕をふりほどこうとする。
「つ…ッつりあわないから、」「ん?」
「仁王と私は、ふつりあいだから……だから、いい」
「ちょ、意味分からんのやけど…ッ」
 なおも腕から丸井が抜けようとするので仁王はそのまま後ろから丸井を抱きすくめた。
「俺、もっと丸井のこと知りたいんじゃ」
「……ッ」
「だから、俺と付き合ってくれん?」


 飴玉みたいな瞳で見つめられて、食べてみたくなったんじゃ、と。
 丸井は躊躇いつつもゆっくりと縦に首をふり、ほんのりと頬を赤く染めた。



end.
2012/12/2
御題はポケットに拳銃様より



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