■ 凍てつくほどの愛しさで
仁王君の体温は私のそれよりも低く、触れる度にいつもひんやりとした感触を私の肌に伝えます。
私が仁王君の頬に手を添えれば仁王君の体温はいつにもまして低く、まるで死人のようでした。
「仁王くん、」
私は仁王君の名前を呼びました。返事はありません。
「ねぇ、起きてください」
肩を揺さぶっても、何度名前を呼んでも仁王君は目を覚ますどころか身動きひとつしません。私はじわじわと迫ってくる焦りと不安に今にでも押し潰されてしまいそうでした。
「仁王くん…におうくん、」
頭の隅で私が囁きます。おまえがやった、と。
仁王君の首にはうっすらと痣がついていました。これはきっと、絞められた痕です。
私が仁王君の冷え切った身体を抱き締めれば、力なく腕が重量にまかせだらりとさがりました。
「におうくん…ッにお、」
私の声は酷く掠れています。視界が涙で滲んで、透明な滴がぽたりと手のひらに落ちました。
私は青紫色の仁王君の唇に何度も口付けて、どこからか現れた警察官に引き剥がされるまでずっと仁王君を抱き締めたまま涙を流し続けたのです。
**
自分たちは別れるべきだと、仁王君は言いました。
ふっと呟くように、まるで自分に言い聞かせるようでした。
これ以上好きになればきっと私を駄目にしてしまう、お互いに依存し合う関係…―ましてや男同士なんて世間からの風当たりが強いのは火を見るより明らかであるし、異性と家庭を築いていく方がよっぽど生産的だ、と。お互いが腐ってしまう前にこの関係を終わらせてしまおう、と。そこまで割り切るまでに一体どれだけの葛藤があったのでしょうか。私には想像もできません。
「俺、柳生とわかれるき」
そうですか、と答える以外に正直道はありませんでした。
……そうして私は仁王君の首へと腕をのばしたのです。
end.
2012/11/29
御題はhmr様より
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