■ きみの声の温度さえ

「景吾」
「馬鹿、耳元で喋るな」
「なんで?」
「なんでもだ!」

 忍足を引き剥がそうと跡部は体を捩るがそれを見越したかのように忍足の腕は跡部の体に上手い具合に絡み付いてくる。
 あろうことかなんなく左腕で体を固定された挙げ句自由になった右腕は跡部の弱い箇所を掠めていく。
「ん、どないしたん景ちゃん。顔真っ赤やで?」
「うるせぇよ…ッ…!」
 わかっているくせに、と思わず口走りそうになるがそんなことをしては奴の思う壺だ。
「ちょっと味見するだけやから…ええやろ?」
「断る」
「そういわんと」
「しつこい」
 ここで折れてしまってはいけない、どんな甘い囁きにも確固として抵抗しなければこの獣にたちまち食べられてしまう。
「なあ…ほんの少しでええから……景吾?」
「だから耳元でしゃべるなって……っ」
「だって景ちゃん、こうされんの好きやろ?」
 先ほどより密に抱き寄せられて、跡部は背中ごしに忍足の吐息まで感じてしまう。
「口で嫌々いうても、体は正直やんなぁ?」
「生理現象にけちつけんじゃねぇよっ…偶然に決まってんだろ、たまたまだ!」
「嘘はあかんで景ちゃん、景ちゃんのカラダは俺のこと欲しいいうとるけど」
「………ッ!」
 制服ごしでも自身が今どのような状況にあるのかぐらいはわかる。
「もっと素直になったらええねん…景ちゃんのそういう意地っ張りなトコも好きやけど」
「ちょっ…てめぇ人の話を……ッ」
「あんまでかい声出したら誰かきてまうで?」

 結局はこうなってしまうのか、と心の中で跡部は毒づきつつも半ばこうなることを望んでいた自分自身に吐き気がした。



end.
2012/11/29
御題は幸福様より



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