■ 終には余韻を込めて

 もう二度と目を覚ますことは叶わないかもしれない。ただその事実がひどくこわくて、幸村は目を閉じることに必要以上の恐怖を抱き始めていた。
 笑う膝を抱えて、真っ白なシーツの海に身を沈める。規則正しくタイルが嵌め込まれた天井が無機質に蛍光灯の灯りをぶら下げて、幸村を淡く照らし出す。
 意識がぶれていく様は滑稽だ。嫌だと叫べども喚けども、体はいうことをきいてはくれない。

 時刻は既に日を跨いで、中学生が起きている分には少々夜更かしと言われるであろう頃にさしかかっていた。最近は体力のぎりぎりまで起きて、その後泥のように眠るということを繰り返していた。
 夜中に巡回にくる看護婦も、一度まいてしまえばあとは問題ない。

 眠る一瞬手前の暗闇が嫌いだ。だから幸村は目を閉じて一瞬で眠りたかった。疲労を訴える体に、睡眠という飴を与える。そこに何の時間もはさまずして、睡眠を貪りたい。
 以前はこんなこと考えもしなかったのに。人は時間を与えられると、今まで見えていなかった余計なものまで見えてしまう。
 なあ、どうか動いてくれよ。
 思い通りにならない自分自身がもどかしくて、苦しい。


誰か、はやく俺の涙を掬って



end.
2012/11/21
御題はilta様より



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