■ 少しは構え、馬鹿

 赤也の英語の成績が余りにも酷いものだから痺れを切らした真田がとうとうキレた。
 真田は全教科漏れなく勉強して中の上ぐらいの成績をキープしているから、二年生の内容なら教えるのは容易いだろう。幸村も英語は苦手だから赤也のことをいえた義理ではないが、流石にあれまで酷くはなかった。
 テスト前の二週間は放課後に二人っきりでみっちり補習をするらしい。可哀想に赤也、真田は部活も勉強も全くといっていいほど妥協を許さないから厳しい未来が待っているのが目に見える。ま、自業自得なんだからみっちりしごかれてきな。


 立海大附属はテスト一週間前になると部活が全面的に休止になる。運動部、文化部ともに例外は認められない。
 裏を返していえば部活がない分赤也の補習は長くなるわけだ。
 未だ赤也が音をあげていないのが不思議なくらいで、なかなかに持ちこたえているな、と幸村は内心感心していた。

「で、赤也はなんとかなりそうなの?」
「今の時点ではどうともいえない。赤也は飲み込みがはやいから抜け落ちてさえいなければ大丈夫だろうな」
「テスト終わるまで続けるんだよね、補習」
「そのつもりだが?」

 真田が赤也に構えば構うほど、幸村の扱いはお粗末になる。そんなこと最初からわかってはいたけど、やはり放置されるのは悲しい。
 幸村はいつも赤也の補習が終わるまで図書室やらなんやらでふらふらして過ごしている。テスト勉強しないといけないのはわかるがどうしても勉強する気が起きないのだ。

 幸村もテストで悪い成績をとれば真田に構ってもらえるのだろうか。
 そんな考えがよぎるが成績不振で部活停止になればそれこそ洒落にならない。
 今は赤也の成績が上がるのを切に願うことしか道は残されていないようだった。
 と、いいつつも、いくら忍耐強い幸村とはいえ二週間放置は耐えられなかった。
 週末が目の前に差し迫った金曜日。土曜日は二人で勉強会を開こう、と言っていたのに真田が赤也を教えにいくから中止にしようなんて言い出したのだ。

「それ、本気でいってるの?」
「本気も何も何故俺が冗談を言わなければいけないんだ?」

 もう頭にきた。沸々と湧き上がる怒りを抑えつけながら幸村は一段と声を低くする。

「別にいいよ、一人でやるから」

 不機嫌を露わに幸村はあほ真田、と小さく零す。

「そう拗ねるな幸村。赤也の為だ、仕様がないだろう」
「それぐらいわかってる!真田はそういうところほんっっとに鈍感なんだから、…っ、」

 真田の言ってる方が正しいのはわかっている。でも頭でわりきれても、心は割り切れないのだ。

「俺がどんな気持ちで毎日待ってるか知らないくせに」
「幸村、なにを…っ…」
「少しは構え!一人で待たされるこっちの身にもなれ馬鹿!!」

 呆気にとられた真田は二拍おいたところでやっと幸村の意図を汲み取れたようで、今にも泣き出しそうになっている幸村をぎゅう、と抱き締めた。

「気付いてやれなくて、すまなかった」
「……わかればいい」


 瞼に滲んだ涙を指で掬って、もう一度腕に力をこめる。



少しは構え、馬鹿

(ひとりよがりだけど、それほどまでに君にみつめていてほしい)



end.
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ヤキモチ妬きの幸村もおいしいです


2012/2/6
御題はAコース様より

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