■ きみの言葉は全部
き」って聞こえる

「柳生なんて嫌いじゃ」

 鈍痛を訴える腰をさすりながら仁王は恨めしげに柳生を軽く睨み付ける。
 柳生はどこ吹く風といった感じに悠々と読書を始める始末だ。
「キスだけって約束やったはずじゃ」
「仁王君が私を煽ったので仕方がなかったんですよ。我慢しろというのが無理な話です」
「煽っとらんもん」
「仁王君の一挙一動すべてが私には誘っているようにしか見えないんですよ。今だってそうやって私を上目遣いに見つめて…昨晩のでは足りなかったですか?」
「うっさい!気持ちよすぎてどうにかなると思ったわあほ…ッ!」
 自称テクニシャンである柳生は恐ろしいことに仁王の身体のことは既に熟知している。
「可愛い人……キスしていいですか?」
「どうせ嫌いうても無理矢理するんじゃろ」
「よくわかってるじゃないですか」
 とんだ似非紳士だ。紳士なんて肩書き、とっととおろすべきなのだ。
「さあ仁王君、こちらへ」
 ぽんぽん、と柳生が自らの膝をたたいて、そこに座るように誘導する。
「ん、」
 向かい合う形で柳生の片膝に跨ればまずは額にキスをされた。それから頬から耳、耳から瞼へ。そして唇。
「ぁ…ふぁ…ッん、」
 溶けてしまいそうな甘い甘いキス。結局は求めてしまう自分が恨めしい。
「柳生なんて嫌いじゃ」
「私は大好きですよ」
 素直になれないちぐはぐな気持ちを柳生は受け止めてくれているのだろうか。そんなことをふと考えたところで柳生の手のひらが仁王の頭を優しく撫でた。
「あなたは嘘つきですから、心配しなくても仁王君の本当の気持ちぐらいとっくにわかってますよ」
「……ッ」

 柳生は仁王のことなら本当になんでもお見通し、というわけだ。



end.
2012/11/20
御題はhmr様より



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