■ 語らぬに抱擁を添えて

※過去捏造話です


 幼い頃――小学校にあがりたての頃だったように思う。仁王にはゆう君という名前の仲良しの男の子がいた。ゆう君はずっと大阪に住んでいて、お父さんの仕事の都合で仁王の住んでいるこの地域に引っ越してきたらしい。ゆう君は仁王とは違う独特の言い回しでいつもたくさんの面白い話をしてくれた。仁王はゆう君が大好きだった。
 でも仁王とゆう君が出会って一年程たち、ゆう君はまた遠くへ引っ越すことになってしまった。
「ぜったい、ぜったいまた会おうな」
「あたりまえやん、ま―君と俺はマブダチやねんから」
 そう言って二人で星形のストラップを半分こした。二つ合わせると星の形になるというタイプのストラップで、本来は恋人同士で使うものだったが当時はそんなことは知らず友情の証として大事にしまっていた。
 しばらくは手紙を出したりしていたのだがいつのまにかそういうこともなくなり、結局連絡先がわからなくなって仁王はま―君のことはすっかり忘れていた。



「だ―れや!」

 氷帝との合同合宿が氷帝学園にて行われることになり、無事一日目を終えた仁王は割り当てられた部屋で一日の疲れを癒していた。
「ん―…だれじゃ―?」
 立海は氷帝との試合も交流も今まで一度もなく、今日一日だけでは声の判別は愚か名前と顔の一致もできていない。
「てっきり思い出してくれとるんかと思っとったんやけど……なぁま―くん?」
「……え?」
「え、もしかして覚えてへん?」
「おまんさん……ゆう君か?」
「そうそう。ようやっと思い出してくれたか」
 しばらく仁王はぽかんとしていたが事情が飲み込めてくると目をぱちぱちとさせて忍足の顔をのぞきこんだ。
「ほんまにゆう君なんか?」
「そうやで、なんなら証拠みせたるわ」
 そう言って忍足が携帯を取り出すとそこには半分に欠けた星形のストラップがついていた。
「ま―くん鞄につけてるやろ?」
「おん」
 仁王は片割れのストラップを鞄から外してもってくると、忍足のものと合わせる。星はかちりとかみあって、一つの形をなした。
「また会えるなんておもうとらんかった…」
「俺もや。折角の八年ぶりの再会や、今晩はゆっくり話しようや」
 仁王はこくりと頷くと、そっとストラップを握りしめた。



end.
2012/11/18
御題はhmr様より



[ prev / next ]

128/303
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -